居場所はドコ?
朝の気持ちいい部室までの道のりを山本が鼻歌
混じりで気持ちよく歩けば、ガチャリと部室の
ドアが軽いので、いつもの様に1年生が早く来た
と思いながら、彼は勢いよくドアを開けた。
「おはよう、諸君!」
『あっ、待って。』
先輩らしさを見せる様にふんぞり返って挨拶を
すれば、そこに後輩の姿は無く、慌てた様子の
美月が着替え途中だった。
辛うじて下は履いているものの、キャミソール
1枚の姿に山本は一旦思考を停止。
『お、おはよう。猛虎。』
「きゃーーー!!!」
見られたのは美月の方なのに、山本の方が女子
に近い悲鳴をあげて、彼女の姿を見ないように
顔を手で覆う。
後から来た黒尾が何事かと急いで駆けつければ、
その2人の様子から状況を察した模様で、無防備
な彼女に眉間に皺を寄せた。
「お前、ここ男子の部室だぞ!!」
『わ、わかってるよ。今日は他の部の子来て
なかったし、ここの部室の鍵は1番早い私が
持ってたから…。』
いつもは、他の女子の運動部の部室を借りて
着替える彼女は、今日は早すぎてどこも空いて
おらず、ここで着替えましたと言う。
彼女が未だにTシャツを着ないまま、そう言って
頭を掻いているので、黒尾はずかずかと部室の
中へ入ると、彼女の谷間をちゃっかり見逃さず
頭の中に残るようにしっかり見ながら、彼女を
バンザイさせて、Tシャツをすっぽりと着せた。
「とにかく、山本の目には毒だから、
お前は早く服を着る!」
『ご、ごめん。』
ビックリしたら固まっちゃって、とヘラっと
笑う彼女に黒尾はなんと返せばいいのやらと
呆れた様に彼女を見た。
「美月ちゃん、ちゃんと女子の自覚ある?」
『大丈夫、クロに何もされないようにガードは
バッチリ!』
「まさかの俺限定かよ。てか、この前危ない目
にあったんだから、登校も一緒に来なきゃダメ
っしょ。」
『今日は電車の人も少なかったから大丈夫
だよー。』
だから、クロを待たずに来ちゃったと笑いかけ、
親指をビシッと立てて答える彼女に、黒尾は
「いや、さっきから全然ゆるゆるだし。」と頭を
抱えた。
夜久と海が「おはよう」と入ってくれば、黒尾達
の様子を見て、何事かと2人共が首を傾げて
いる。
『さっき、着替えてる所に鉢合わせしまして。』
「げっ大丈夫かよ。黒尾に襲われたりとか
しなかったか!?」
「いや、俺はそこまでケダモノじゃねえし。」
『ごめん、今回は私が悪いから。』
美月が2人に事情を説明すると、彼らも納得して、
疑って悪かったと夜久は黒尾に素直に謝った。
いや、色々刺激はされたけどと本音は零さぬ
まま、申し訳なさそうに黒尾を見る美月に視線を
落とした。
確かに、彼女も毎回他の部の部室を使うのは、
終了時間もだいぶ変わるので、気を使っている
ことには変わりない。
もう少し活動しやすい環境を作るのは、こちら
の仕事だろうと黒尾は考えた。
「仕方ねーな、美月が着替えれる
スペース作ってやるか?」
『あ、それ嬉しい。助かる!』
そしてその翌日に必要なものを買い、ロッカー と壁の僅かなスペースを使って、突っ張り棒と
カーテンを付けてみたら、見事に簡単に着替え
る場所が完成し、小柄な美月には丁度良かった。
「おっ、いい感じじゃん。」
「おはよ…って何これ。」
後から来た孤爪が新しく出来た仕切りに驚くも、
彼女が私の部室を作ってもらいましたと嬉し
そうに彼に教えるので、良かったじゃんとここ で着替えるんだと突っ込みたいけど、彼は
突っ込めないまま、そのカーテンを見ていた。
『早速、使ってみてもいいですか!?』
「どーぞどーぞ。」
カーテンを捲りながら彼女が中に入って脱ぎ
始めると、何故か皆が段々と静かになっていく。
彼女のファスナーを開ける音や、ガサガサっと
揺れるカーテンを見ていたら、その生々しい
音と少し動くカーテンのシルエットに、皆が妙
に恥ずかしさを感じているようだった。
「何か、見えそうで見えない感じが逆に気に
なるっつーか。」
「あぁ、音がエロいな。これ。」
ゆらゆら動くカーテンを見ながら、珍しく夜久 と黒尾の意見が一致をし、その揺れるカーテン
を少し頬を2人はほんのり赤く染めながら見た。
「駄目だ!美月さんが着替えてる所を
逆に想像してしまう。」
とよからぬ妄想が過ぎる山本には限界が来て、バタリとその場に崩れ落ち、このスペースは
かえって良くないのでは?と孤爪は顔を顰めて
皆の反応を見ていた。
「おはザース!」
そこに社長出勤リエーフが登場し、今まで
無かったカーテンと崩れ落ちている山本を交互 に見て彼は首を傾げていた。
「何ですか、コレ?」
「美月の着替えるスペース。」
「美月さんここにいるんですか!?」
孤爪から話を聞いた灰羽は目をキラキラと
させながら、彼女のいるそのスペースに近づく
と「美月さん、おはようございまーす。」と
しっぽを振る犬のようにキョロキョロとその場
を動く。
「覗くなよ、馬鹿。」
「夜久さん、コレ背伸びしたら丸見えですよ。」
『あっ、おはよ。』
ロッカーとの高さは2mない所で、157センチの
美月から十分に高さがあるので何とも思わずに
いたが、彼らが少し背伸びをすれば十分に中を
覗ける高さになっており、灰羽と美月もばっちり
と目が合った。
美月は突然の侵入者に目が点になり、かける
言葉が見つからず、まだ着替え途中だった彼女
は動揺しながらも、ニコニコ無邪気に微笑んで
いる灰羽にとりあえず挨拶をする。
「あ、夜久さんは背伸びしても見えな…」
灰羽が言葉を言い切る前に夜久が彼に飛び蹴り
をして、勢い余って灰羽はカーテンを掴むと、
それは意図も簡単に外れてしまう。
『えっ、ちょっと…!?』
「しまった!!!」
灰羽と夜久が入れ替わるように美月の目の前に
は夜久が立ち、彼の反射神経が活かされ、すぐ
にカーテンを掴んで彼女を包んで、誰にも見せ
ないように身体を隠した。
『ありがとう、やっくん。』
「ここで着替えるのやっぱり禁止!」
ほらお前らも後ろ向け!と彼女が着替えれる
ように見張りをしながら、他の仲間達に誘導を
する。
用事で一旦席を外していた海が入ってきて、
しまったと夜久が焦る様に美月の方を振り向く
と、彼女は服を着ていたので、夜久はほっと
胸をなでおろした。
「そんな事だろうと思った。」
外れたカーテンを目にした海も状況を把握した
のか、周りの様子を見ながら苦笑いを浮かべる。
そして鞄からあるものを出せば、それは只今
着替え中と書かれたボードで、ドアに掛けれる
紐までちゃんと着いていた。
皆がその手があったかと鳩が豆鉄砲を食らった
様に海が取り出したものを見つめていた。
『最初からそうすればよかったね。』
「実はクロが着替え中の中に入りたいが為に
コレを作ったんじゃない?」
「黙ってるってことはクロかよ、黒尾だけに。」
『…クロのえっち。』
「美月、それはかえって黒尾を喜ばせるだけ
だから、そんなこと言っちゃダメ。」
こうして、美月が着替え中にはこのプレートを
掛け、入って大丈夫であれば、彼女が知らせる
といった形で話は纏まった。
そしてわざと入ろうとすれば、それなりの
ペナルティを課すことによってそれは見事に
守られ、着替え問題は平穏に解決するので
あった。