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いつの間に寝ていたのだろうか。

時刻は少し早いが、シャワーを浴びる時間を考えると丁度良い時間である。ベッドに横たわる男にそっと近付き寝息を確認するとスヤスヤと眠っているようである。一晩経った事だしこれならばもしシャワーの音で起きてしまっても問題ないだろう、とは思ったが、なるべく物音を立てずに浴室へと向かった。

幸い、なのかシャワー中もドライヤー中も男は起き上がる事はなく寝たままだった。会社へ向かう準備しながら家を出る際も起きない事を考えて男に書き置きと適当に軽食を用意し、さてそろそろ出ようかな、と考えていた時だった。

「……ッ?!」

男が声にならない声を上げベッドから飛び起きた。言うなれば泥酔し目が覚めたら知らないベッドを上でした、のお手本のような起き方である。
自身の身体をペタペタと触り確認し怪訝な表情をしながらも手を下ろすと、昨夜置いておいた警察手帳に手が当たったのに気が付き今度は化け物でも見たかのような顔つきになりながらその手帳を手に取る。

「おはようございます。それ、近くに落ちていたので拾っておきましたが…あなたもので間違いありませんよね?」
「ッ?!!」

声をかけると化け物でも見たかのような顔が次はこちらに向けられる。
言う通りに救急車も警察にも連絡せず。かと言って放置する事もなく一晩ベッドを明け渡したのに向けられる表情ではないと思う。が何か事情があるのだろう、特に文句を言う事はなく今から自分は家を出る旨を告げた。

「救急車も警察にも連絡はしていません。外傷はないようなので特に何もせずベッドに下ろしただけですが、何かあればこちらを使って下さい。今から家を出ますが昼過ぎには戻れるかと思います。それまでに出るようであれば戸締まりだけお願いします。鍵はポストへ。では」
「…ちょ、ちょっと待って!君、何?何者だ?!組織の人間じゃ、ないのか…?!」
「何者と言われましても…昨夜も言った通りただの通りすがりの者です。
組織、の人間かと言われればまぁそうだったかもしれませんが今日からは晴れてプー太郎なので今からその会社へ退職手続きに行くところです。では。」
「…いや、待て待て待て!君が…組織の人間じゃないとしてこんな得体の知れない奴を自分の家に残して行くのか?!君の危機管理能力はどうなっている?!」
「…得体の知れない、という自覚はおありなんですね。でもそれ…それで得体が知れなくはないでしょう、諸伏さん。それにこの家には残念ながら金目のものはありませんし…と、やば、もう出ないと。それでは後はご自由に」
「えっ、な、ちょっと君…!」

男の文句が聞こえた気がしたが、本当にもう出ないと間に合わない。退職手続きだけとは言え、遅刻は避けなければ。駅までダッシュすればギリギリ間に合うだろう、と鞄を肩にかけ握り締める。
なんとか乗車予定の電車には間に合った。



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