04
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全員で納得したルールだったが、今は気持ちが急いで、何かしてないと落ち着かない。布団に入ってもどうせ寝れるわけもなかった。
暫く布団の上や椅子に座りソワソワしていたが、ついに我慢できなくなり、もう一度学園を調査しようと扉を開けたその時、
隣の部屋に入る桑田の姿を一瞬捉えた。
「…誠の部屋?」
こんな夜遅くに?
苗木の部屋に桑田が入る理由なんてあるだろうか。
まさか、と嫌な予感が頭をよぎり、急いで苗木の部屋のドアを開けた。僅かにドアは閉めきられていなかったようだった。そしてドアを開ける直前、苗木のネームプレートが“舞園”に変わっていることに気付き、意味を理解しようとしたところで
“苗木”の部屋で今まさに刀らしきものを振り上げる桑田と、包丁を振り上げようとする舞園の姿があった。
−−−そこからは、まるでスローモーションのように目の前の出来事が動いていた。
手を伸ばし、桑田と舞園の間に身体を滑り入れる。
正面に立つ桑田は恐怖と驚愕の表情のまま刀を自分の頭に振り下ろし
背中には切りつけられた熱い痛みが走る。
ここまできっと数秒もなかっただろう。しかしひとコマずつ鮮明に動きが見えた、だからわかる、きっと自分は《間に合った》。奇跡としかいいのようのない結果に、喜ぶ暇はない。頭を揺さぶられるような痛みも、背中に照りつく痛みも全く気にならない。
ただ、自分が感じたものは…途方もない“怒り”だった。
「なっ、みょうじ!?お前!」
桑田の声に反応する余裕もなく後ろを振り返り、真っ青な顔で血の付いた包丁を握る舞園の顔を思いっきり拳で殴る。
喧嘩慣れなどしていない自分の力なんてたかが知れている、案の定大した衝撃はなかったようだが舞園の隙を突くだけなら十分だった。
舞園が力を抜いたその一瞬の隙に包丁を奪い、彼女の足を払って床に倒す。自分もマウントポジションを取り、身動きを封じた。
暫くの沈黙。
その場の全員が荒い息を吐き、舞園と桑田は目の前の…みょうじの次の行動を待つかのように、呆然と、動けずにいる。
「…舞園さん」
地を這うような声が喉から漏れる。
その声にピク、と舞園の顔が震えた。
「どういうこと」
今、自分の下にいる、この女は。
苗木が大事に思う、この女は。
一体、なにを。
「どうして桑田を殺そうとしたの」
どうして。
そう口にしながら、本当はわかっていた。わかっているのに、聞かずにいられなかった。
「…私は、外に出なければならないんです」
震える声だ、口調はあまりにも痛々しい。しかし許せない。自分の下に倒れこむ、真っ青な顔で、目だけは獣のように荒れる瞳の女が。
この女が口にしたことは、あまりにも。
「…何のために、あなたが外に出るの」
怒りを抑えようとすると、自分も声が震えてしまった。
「仲間のために」
舞園の強く言い放ったその言葉は、あまりにも。
再び殴ってしまわないように、自分を強く戒めた。
「…そう」
一呼吸おいて言葉を続ける。冷静に、冷静にならないと。
「仲間が危険な目に合う動画だったのかな。じゃあ、あなたが外に出れば仲間の安全は保障されてるの?あなたが人を殺さなきゃ助からないとでも書いてあった?」
あくまでも冷静に放たれた言葉に、舞園の瞳の色に初めて殺意以外の僅かな戸惑いの色が生じる。
「…それは」
「どうして桑田を狙ったのかはもう聞かない、簡単に殺せる相手だと思ったからだもんね。…きっと、誠にもそうだったんでしょ」
苗木の名前を口にすると、心の奥底で沸々と新たな怒りが湧いてくるのを感じた。
「あと、この部屋のプレートが誠からあなたの名前に変わってたよ。きっと誠と部屋を交換したんだよね、この部屋を使って、誠を犯人にしようとしてたんでしょ」
疑問ではない、確信。
そして舞園の表情がそれを肯定していた。
「な、何だよそれ…わけわかんねーよ、オレ殺されかけたぞ、こいつ頭おかしいぜ?!」
「頭おかしいことについては同感だし桑田には同情するけど今あなた舞園さん殺しかねないからそこ動かないで」
桑田の喚きの相手をしている余裕はない。
「舞園さん。あなた何考えてるの?」
そして舞園への侮蔑を隠す余裕もなかった。
「冷静な判断を奪うことこそが、黒幕の狙いなんだって誠言ってたじゃん。あの時わかってなかったの?それとも実は耳が付いてなかったの?」
「…っ、話聞いてたんですか」
「確かに盗み聞きはよくなかったねゴメンナサイ。
で?誠の話は聞いてなかったのかって聞いてるの。答えて」
「ッじゃあ!仲間を見捨てろって言うんですか!!!見殺しにしろって言うんですか!!!」
舞園の心からの叫びも全く心を揺さぶられない。
「質問に答えてよ。
じゃあ言うけど、それが私達を殺す理由になると思ってるの?」
「…っ」
苦しげに呻く舞園は、感情のまま叫んた。
「理由になんて…っなるわけがない!わかってますそんなこと!!じゃあどうしろって言うんですか、このままこの学園に閉じ込められてろって言うんですか!!仲間が、助けが必要なはずなのに!!」
「誰もそんなこと言ってない」
「…もう、わかってもらえるとは思いません。でもあなた達を殺さなきゃ、私は外に出られない」
「なるほどね。…じゃあもう一度聞くけど、」
一瞬の間を置いて
「舞園さんが人を殺して外に出れば、そのお仲間さんとやらは助かるんだね?舞園さんじゃなきゃ助けられないことがDVDで約束してたんだよね?だって約束されてないなら何で私達が誰かを殺す必要ないもんね?約束されてなかったら誰が私達が人を殺すのを望んでるんだろう。ねぇ、誰だと思う?」
「…さ…さっきから、言いたい意味がわかりません」
わかってるくせに惚けようとするその神経も胸糞悪い。本当に苗木は女の趣味が悪いと思う。
「じゃあ私の本音を交えてはっきり言うね。
あなたのしてること意味ないよ。むしろ、余計なことしてくれた。結局、全部モノクマの思う通りにあなたは行動してくれた。
せっかくの誠の言葉も無視して。誠だって誰にだって余裕なんてないんだよ、1秒でも早くこの学園から出たいって思ってるに決まってる。でもだからって人を殺すのは間違ってる。何でそれがわからないの?」
「じゃあ、あなたは…大切な人を見殺しにするんですか」
舞園からの詰るような視線に、何も感じないわけではない。
舞園への怒りは確実に募っている。
「勝手に殺さないでくれる?」
冷静であれと思いつつ、あまりにも腹が立って血の付いた冷たい包丁を舞園の喉に突きつける。
サッと顔を青ざめさせるもののギラついた顔でこちらを見る舞園は、まだ殺意を持っている。
「履き違えないで、私達の敵は誰?あなたの敵は私達なの?違うでしょ、黒幕でしょ、モノクマでしょ」
背中の痛みのせいか、興奮のせいか、徐々に早くなる心臓の鼓動を抑えて話を続ける。
「私だってあんなDVD見せられて動揺してる。でっちあげじゃなかったらどうしようって思ってる。でも私は信じてる。あなたの仲間が死ぬはずない、私のお母さんも生きてる、どんな理不尽なことがあっても、病気だって寿命だって何だって超えて、生きて私の帰りを待ってくれてる。
…そうだよ、ただの願望だよ、今すぐここを出てお母さんに会いたい、生きてることを、無事でいることをこの目で確かめたいっ…」
そこまで言い切った後、抑えていたはずの感情が、ドッと溢れてきた。
「でも、そのために私が、私達が、人を殺すわけにはいかない!お母さんが愛してくれている私を、たくさんのファンに仲間に愛されて、誠にだって大事に思われてるあなたを、絶対に人殺しになんかにさせるわけにはいかない!!」
ツゥ、と舞園の瞳から涙が一粒溢れた。
綺麗事だ、と思ったことだろう。そんなことはわかってる。
しかし、こんな時だからこそ綺麗事を失ってはいけないのだ。この絶望的な状況で、己を失わないようにするためには。
苗木の顔が一瞬頭をよぎる。
「モノクマが外道だからって、私達まで外道になる必要なんてない。私達は全員でこの学園を出るの!−−−痛っ」
背中の突き抜ける痛みが今さら脳を伝って全神経に訴えてくる。舞園の喉に当てていた包丁をずらし、唇を噛んで痛みを堪える。
「みょうじさん…」
「みょうじ、お前、血が…」
声を抑えきれず呻いてしまったらしく、舞園と桑田から声が上がる。
舞園の瞳はもう抵抗しなかった。
「舞園さん、あなたがもうこんなことしないって約束してくれるなら、私はこのことを誰にも言わない、というか言いたくない。悪戯に皆の不安を煽るようなことしたくない。
だからもう…二度と誰も、誠も、裏切ったりしないで。誠は誰にでも優しいけど、ここの誰よりあなたの味方になってくれたの、わかるでしょ?誠がいってくれたように、全員で力を合わせてこの学園を出よう。全員で、皆の大切な人を取り返すの」
背中が熱い。死ぬほどではないが身を捩りたくなるような痛みだ。
「約束して」
それでも声を振り絞るように言うと、舞園は殺意が失せた、その代わりに戸惑いの混ざった瞳を潤ませて顔を歪めた。
「どうしてそこまでしてくれるんですか…私のこと、皆に…苗木君に言ってしまえばいいのに」
「言うリスクが高いから言わないだけ、あなたに殺されかけた桑田も我慢してもらうことになるからそこは申し訳ない、本当は復讐の権利が充分にあるんだけど…桑田、受け入れられる?」
「そんなこと言ってる場合じゃねーだろ!お前の傷っ!」
「いいから誓え!」
「わかったよ!!」
「わかった?舞園さん。あとはあなた次第」
大きな瞳を閉じ、溢れる涙をそのままに舞園は唇を噛み締める。
「苗木君を…裏切るのは本当に辛かった」
「自業自得。次はしないで」
「仲間を助けたいんです」
「助けよう。皆で」
「苗木君が、苗木君が…好きなんです」
「わかるよ」
「ごめんなさい……」
一瞬、ドキっとした。
舞園の呟きが、自分が母親に謝ったときのものと重なった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
何に、とは思わなかった。
ひとつのことではないのだろう。
「舞園さん…約束できる?」
「……」
涙に詰まって声が出せないのだろう、呻き声が出るだけだった。
それでも彼女の首は、確かに縦に動いた。
「よし、じゃあ…モノクマ!」
「!?」
「は?!モノクマここにいんのかよ!」
驚愕で舞園と桑田が目を剥いた時、当たり前のようにモノクマが目の前に現れた。勘は当たっていた、おそらく防犯カメラで様子を見ているのだ。そうでなければ事件が起きた時にモノクマは犯人を知ることができない。
「何だよ人がぐっすり寝てる時にさぁ…」
「クマなんだから人じゃないし、機械だから寝ないでしょ。それよりカーペット汚れたから取り替えてよ」
「はぁ?なに、そのためにボクを呼び付けたわけ?いつから学園長は生徒のパシリになったんだよ?」
「生徒が過ごしやすいように細かい雑務をこなすのも学園長の仕事でしょ?それにこの背中の傷、このまま放っておかれても死因にはならないから事件は起きないよ」
「クールぶってるところが超ムカつくけどまぁ仕方ないから片してやるよ。じゃあオマエラさっさとシコシコしてねんねしな」
「最低」
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