「とりあえず生で」
「俺も同じので」
あの後18時ぴったりにラウンジに来た諏訪と一緒にいつもの居酒屋に行き、注文をする。今更「じゃあ…カシオレで」なんて可愛い注文は出来ない。というか、しない。
「あと適当におつまみちょーだい」
小さな店…ごほん。知る人ぞ知る名店だからお客さんは私たちみたいな常連が多い。そのせいか、店主のおじちゃんとも顔見知りのため、適当に出してもらう。うん、たこわさうま。
「諏訪さあ…彼女つくんないの?」
「あ?なんだよ、いきなり」
お互い適度に酔いも回って、いつものようにくだらない話をする中で私自身も予想していなかった言葉が口をついて出た。しまった、とは思ったが口を出た言葉はもうどうにもならない。半分やけくそで言葉を続けた。
「なんとなく?」
「あー…まぁ…あれだな」
「はぁ?」
お酒のせいか、質問のせいか。少し頬を赤くしながら言葉を濁して、目をそらす諏訪を問いただす。
「あれって何よ」
「あー…好きな奴、いんだよ」
「!ふーん…そうなんだ」
聞かなければよかった、と思った。頭が一瞬真っ白になって、じわりと涙が滲んだ気がした。諏訪、好きな子いるんだ。意外と冷静な頭でそう考えるとまた、じわりと涙が滲んできて。それを隠すようにグラスに残っていたビールを飲んだ。
「おじちゃん、もう一杯」
「お前そんなペースで飲んでて大丈夫かよ」
「別に大丈夫!」
「なに怒ってんだよ…」
いつもより早いペースでがぶがぶとビールを飲む私を諏訪が止める。頭がぼーっとして目の前がくるくる回る。
「ひっく…」
「ったく、ほら水飲め」
「いや!びーるのむの!」
「はぁ…おっちゃん会計頼むわ」
「まだのむの!ばか!はなせー!」
一向に落ち着く気配のない私に呆れたのか、何なのか。強制的に引きずられながら店を出る。諏訪が珍しく奢ってくれたぁ…なんて呑気な事を考えながらフラフラと覚束無い足を動かす。
「ったく、ほらもう帰んぞ」
「うー…ん」
「おい、梓?」
今眠ったらダメだ、そう思う私を嘲笑う様に落ちる意識の中で諏訪の私を呼ぶ声が聞こえた。
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