「好きな子、いるんでしょ…?私、ここにいて大丈夫なの…?」

言ってしまった、なんて後悔しても既に手遅れだ。昨日、諏訪から好きな子がいると聞いてからずっとおかしい。らしくもない発言はするし、酔っ払って醜態晒すし、もう散々だ。諏訪にはもう呆れられてると思う。

「…は、?」
「だ、だから!好きな子にこんな所見られたらまずい、でしょ…?」

口をポカンと開けて固まる諏訪に思ってもいない事を言う。はっきり言ったら、好きな子に私と家にいる所を見られて失恋してしまえばいいと思ってる。…最っ低だ、私。

「いや…あー…そうだよな…」
「っ…わ、たし帰るね!」
「は!?あ、ちょ、おい!」

額に手を当てて考え込む諏訪を見てられなくて席を立った。こんなに良くしてもらって何もしないで帰るなんてどうかと思ったけど。他の子のことを考えてる諏訪を見てるのは正直辛いし、泣きそうだ。いつもみたいにヘラヘラ笑って茶化すことが出来ればいいのに。

「梓!」
「っ!す、わ…?」
「はぁ…待てって言ってんだろ」

その場から逃げようとした私の腕は諏訪に掴まれて、そのまま引き寄せられて目の前が真っ暗になった。ふわりと鼻についたのは諏訪がいつも吸ってる煙草の匂いで。一瞬、何が起きてるか分からなかったけど、背中と後頭部に回った手が今の私の状況を物語っていて。恥ずかしいやら何やらで頭が真っ白になった。

「この鈍感女」
「な、何言って…」
「俺が好きでもない女を甲斐甲斐しく世話するかよ」

そう言って私の顔をのぞき込む諏訪の顔を真っ直ぐ見れなくて顔を背ける。待って待って、ほんとに無理。恥ずかしい。ショートしかけている思考回路の中でふっとひっかかった。あれ、まって…「好きでもない女を甲斐甲斐しく世話するかよ」って、ことは…?その言葉から行き着く一つの可能性に私の頭は完全にショートした。

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