たくさんの目が私を見つめる中、私は黒尾くんの背中に張り付いていた。

「白川ちゃん、自己紹介しようぜ?」

「む、むり…っ!」

今までこんなにたくさんの人に囲まれたことがなかったせいで、私の頭はもう許容範囲を超えていた。

黒尾くんの着ている真っ赤なジャージを握りしめて目をギュっとつむる。何なら耳もふさぎたいけれど生憎私の手はジャージを握りしめることで精いっぱいだ。

「あー、同じクラスの白川美月ちゃんって言うんだけど…ちょっと人見知り激しくてさ」

見かねた夜久くんが紹介してくれるけれどそれどころじゃない。怖い。

人に見られるのは好きじゃないし、人と話すのもあまり好きじゃない。まして、こんな大勢の前で話すなんてもっと無理。

「夏合宿の臨時マネやってもらおうと思って、お試しで連れてきたんだけど…」

そこまで言って言葉を切る黒尾くん。言いたいことはわかる。私の人見知りが思っていたより深刻だったのだろう。

昔も同じようなことがあった。黒尾くんみたいに何度も話しかけてくれて、だんだん慣れてきて、友達になれたって。仲良くなれたって。うれしかったのに。

その子の友達の前で何も言えなかった。できなかった。その子も私も笑われて、バカにされて、その子には嫌われた。

きっと呆れて何も言えないんだ。せっかく仲良くなれたと思ったのに。また離れちゃう。今までだったらなんてことなかったのに。

黒尾くんともうお話しできなくなる。そう考えただけで胸が、痛い。

2017/4/15 執筆


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