「お、はよう」
「おはよう、真緒」
「手伝う」
「じゃあ、これ運んでくれるか?」
「ん」
あの日から真緒の中で大きく変わったことがいくつかある。一つ目は敬語を使わなくなったこと。二つ目は呼び方が変わったこと。ここでは仮面を被らなくてもいい、完璧じゃない素の自分でいてもいいと、そう言ってくれた彼らからの優しさだった。
「敬語とかさん付けとか止めちゃおう!」
「確かに瑠璃川くん、とか正直気持ち悪かったし」
「真緒が呼びやすいように呼んだらいいんじゃないかな」
一成、幸、東が言った言葉がきっかけで全員がそれでいい、と。そう言ってくれた。真緒にとっては無理に自分を作り上げなくてもいい、完璧じゃなくてもいい、無理して笑わなくてもいい。それは今まで付けられていた重りを外されたようで。
身軽になった真緒を団員たちは徹底的に甘やかした。今までワガママ一つ言わずに自分を押し殺して生きてきた真緒が甘えられるように、と。誰もカンペキな自分を求めない。真緒にとってこれほど幸せなことはなかった。
「おはよう、真緒くん」
「…おはよ」
「む?どうしたんだい、顔を顰めて」
「何でもない!」
「ははっ、名前呼ぼうとしたんだよな」
「ちがっ、!」
「そうか!遠慮なく呼びたまえ!真緒くん!」
「〜っ!臣とアリスのバカ!」
いつもの様に手伝いに来た真緒に臣が仕事を与え、いつもの様に朝のコーヒーを飲みに来た誉が真緒をからかう。クスクスと笑う2人に顔を少し赤くして真緒が文句を言う。
「おっと、どうしたの?真緒」
「臣とアリスにいじめられた」
「ふふ、そっか」
「信じてないでしょ」
「2人とも真緒が可愛いからちょっと意地悪したくなっただけだよ」
「あず姉まで…!」
「ふふっ、ほんとだよ?」
キッチンを飛び出そうとした真緒を受け止めたのは東で。少し顔の赤い真緒を見て問いただすと拗ねたように口を開く。笑って頭を撫でてやると可愛いと言われたことに照れたのか更に拗ねて唇を尖らせる。
「おはようございます、って何してるんすか?」
「綴!」
「おわっ!?真緒!?」
「逃げられちゃった」
談話室に入ってきた瞬間に自身の背中に避難する真緒に驚く綴。それを見て笑う臣、誉、東を恨めしそうな目で見る真緒に何かを察した綴が苦笑いを零した。
少しするとワイワイガヤガヤ、とうるさくなる談話室。真緒を見つけると口々に挨拶をする団員たち。少しずつ変わりつつある真緒の心と表情に、それを見ていたいづみの頬が緩む。
「お、はよう。いづみちゃん」
「おはよう!真緒ちゃん!」
花が咲くように君が笑う
満開には届かないその花の
輝きはきっと未知数
2017/08/12 執筆