「真緒ー」
「万里くん?」
「昼飯行くぞ」
「へ、あ、うん」
教室の扉をガラリと開けて入って来た万里。そのまま真緒の手を取って流れるように歩き出す。クラス全員何が起きたかワンテンポ遅れて理解し、万里達が教室を出てから数秒後、絶叫が響き渡った。
「すごい騒いでるけど…」
「ほっとけ。つーかなんだよ万里くんって」
「クラスのみんなの前だから、一応…」
「学校でも普通にすればいいのに」
「それは…ちょっと…」
頭の後ろで腕を組みぺたぺたと上履きを鳴らして歩く万里の隣を姿勢よく静かに歩く真緒。当然ながら学校では素の自分でいる訳がなくカンペキな日高真緒を演じている訳で。
「私の、唯一気が許せる場所はあそこだけ、だから」
「ま、それはそれで悪い気しないわな」
「わっ、なに?」
「なんでもねーよ。ほら、さっさと行くぞ」
立ち止まって自分を見る真緒の嬉しそうな顔に万里もそれでいいか、と思えてしまう。くしゃりと真緒の頭を撫でて咲也と真澄が待つ中庭に足を向けた。後ろからぱたぱたと追いかけてくる足音を聞きながら、万里は頬を緩めた。
「真緒ちゃん!」
「さっき教室にいなかったけど、どうしたの?」
「先生に雑用頼まれちゃって…一緒にここ来れなくてごめんね?」
「ううん。万里が迎えに来てくれたから大丈夫」
ぱちん、と顔の前で手を合わせて謝る咲也に真緒が笑って返す。最近では素の自分を普通に出して話ができるようになって来た真緒に咲也も万里と同じ様に頬が緩む。
「座れば?」
「あ、うん」
「これ、臣が渡せって」
「私に?」
「弁当」
「真澄が持ってきてくれたの?」
「真緒がさっさと行くから」
「うっ…それはごめん…。でもありがとう」
「ん、別に」
団員たちの前では笑顔で取り繕うことをしなくなった真緒に対して、真澄も少なからず真緒への対応が柔らかくなった。勿論、1番はいづみだが。いづみが可愛がってるから俺も可愛がってる、と訳のわからないことを言ってはいるが、何だかんだ放っておけない性分の真澄は何かと真緒を気にかけていた。
「真緒、今日の帰りカラオケ行こーぜ」
「カラオケ?」
「おー、今まで優等生だった真緒チャンに俺が悪いこと教えてやんよ」
「好きで優等生やってる訳じゃないんだけど。でも、行ったことないから行ってみたい」
「え!?真緒ちゃんカラオケ行ったことないの?」
「学校終わったら公園でひたすら作曲して家に帰って寝る、みたいな生活だったから」
「…作曲バカ」
「ぶはっ、それだな。ま、ウチ来てからは作曲どころじゃねえだろ」
「むしろ作曲する時間が足りないくらい。今までそんなこと無かったからどうしよ、って感じ」
「あはは!皆真緒ちゃんと話したいんだよ!」
「その点、俺らは同じ学校だしラッキーだよな」
「真緒、この間の曲できた?」
「あ、うん」
「後で聞くから貸して」
「うん。わかった」
「お前はほんっとに我が道を行くな」
「真澄くんらしいけどね、あはは」
2017/08/12 執筆