「ん、ん?んー…」
「真緒さん、大丈夫ですか?」
「んー…だいじょばない、かも…」
「ええっ!ぼ、僕に出来ることがあったら言ってください!」
談話室のソファに座り、ノートを見つめて唸る真緒を見て、向かいに座る椋が声をかける。その隣でもしゃもしゃと臣の手作りアップルパイを頬張る十座もチラリと真緒に視線を向けた。
「なんにも流れてこない…」
「気分転換とかしてみたらどうですか?」
「んー…そうしよう、かな…」
「じゃあ僕、紅茶入れてきます!十ちゃんもいる?」
「悪い、頼む」
「うん!わかった!」
真緒が背もたれに全体重を乗せて、天を仰ぐ。気を利かせた椋が紅茶を入れようとキッチンへと消える。点を仰いだまま固まる真緒を十座がじっと見つめる。そして、手元に視線を落とし、今度は皿に乗ったアップルパイをじっと見る。
「真緒、」
「んー…」
「やる」
「え?これ?いい、の?」
「疲れた時は甘い物、だろ」
「あり、がと…」
自身の手元にあったアップルパイの乗った皿を真緒の方に移動させて、自分の分を食べる。素っ気ないが気を使ってくれたのだと、ふわふわと暖かい気持ちになる。少し気恥しくなって十座から目をそらす。
「真緒さん!休憩にしましょう!」
「ありがと、椋」
「今はなんの曲を書いてたんですか?」
「趣味用、かなあ…」
「趣味、ですか?」
「うん。今この空間にBGMつけるなら…とか考えてると浮かぶんだ」
「わぁ…!すごいです…!」
「万里と十座が喧嘩してる時のBGMとかあるよ」
「は?そんなのあんのか」
「聴いてみたいです!」
「いいよ」
椋の持ってきた紅茶を飲みながらそう言うと2人が目ざとく反応する。目をキラキラさせる椋と少しソワソワしている十座にイヤホンを渡し、付けてもらう。ウォークマンを操作して目当ての曲を流す。
「確かに十ちゃん達の喧嘩にぴったりだね」
「こんな感じなのか…?」
「私にはそういう風に見えた、かな」
「僕もこういう風に見えるよ?」
「…他、ねえのか」
「あるよ。例えば…」
今聞いているBGMの大元が自分であると思いながら聞くと何だかむず痒くなる。十座のリクエストに答えて、別の曲を流した。
2017/08/13 執筆