青い紙、ねぇ…

「ああああ!もう!何にもないじゃないっスか!ほんとにあるんスか!?」
「グダグダ言ってないで手ェ動かせアホ!」
「いや、でも黄瀬の言う通りかも…こんなに見つからないもの…?」
「チッ、また何か別に必要ってことかよ」

花宮と古橋、そして海常と西条さんを連れてやって来たのは第一図書室の隣にあった第二図書室。第一図書室で見つけた本は、白紙だったはずのページにその瞬間に起きた出来事が描かれていた。続きのページはまた白紙。恐らく今後も起きた出来事しか記されないだろうが一応、と持っていったが赤司達も同じようなことを言っていた。言ってしまえば持ってはいるものの役には立たないアイテム、と言った所だろうか。何も見つからない第二図書室の探索から既に15分。今までよりもかなり時間を使ってしまっている上に、収穫が一切ないとなるとさすがに空気が重くなってくる。口には出さないけれど花宮のイライラも既に良い所まで来ている。正直、勘弁して欲しい。

前にもこんなことがあったと言っていたような気がして記憶を手繰り寄せる。今のように探索しても何も見つからなくて、ほぼ詰んでいた時に彼女が…。思い出した。そうだ、私が倒れていた時に職員室を探索していた時の話だ。あの時も次の教室へと繋がる手がかりがなくて詰んでいた所に彼女が青い紙を発見したと言っていた。恐らくその青い紙も何らかの理由や発見されるに当たっての条件があるはずだ。隣で白紙の本を見ては舌打ちをするまこちゃんに一瞬だけ視線を向けて、同じように本棚に手を伸ばす。並べられた本はどの本を見ても真っ白のページだけがひたすらに続いているばかりで、いい加減にこの作業にも飽きてきた。何回同じことをすればいいんだ、一体。

「…!あった…!ありました!青い紙!」
「青い紙、ねぇ…」

態とらしく響いた彼女の声に少しだけ、空気が軽くなる。見つかったのが青い紙の時点で怪しさしかないのだが、この際状況が動くなら何でもいい。青い紙に書かれていたのは『本棚を倒せ』という文字。赤い紙に書かれていた内容とは正反対で、具体的な指示が書かれたその紙は恐らく初めから準備されていたものではない。指示の内容も紙が出てくるタイミングも、全てが不自然だ。個人的には、青い紙は彼女が用意したものなのではないかと疑っているが、今は指示に従っておくことにしてこちらの様子を伺う彼女に少しだけ視線を向けた。

「本棚を倒せって…この本棚倒れるんスか?」
「中身抜けば倒れるんじゃねぇの?」
「うだうだ言ってねぇでやってみればいいだろ、ンなもん」
「花宮の言う通りだな」

本棚に手をかけて首を傾げる黄瀬に笠松さんが不安げに口を開く。やってみればいいんじゃない?と言おうとした私の隣で至極イラついた様子の花宮が口を開いた。仮にも先輩の笠松さんに顎で指示出す花宮にため息をつくと反対側に立っていた古橋がフッと鼻で笑いながら口を開く。バカにしたような二人の態度に、眉間に皺を寄せた黄瀬と笠松さんが口を開こうとしたのを遮って声を上げる。

「とにかく、倒せばいいんでしょ。黄瀬、手伝って」
「何で俺なんスか」
「いいから、早くして」

今にも噛み付きそうな黄瀬を手招きして本棚に向かえばぶうぶうと文句を言いながら後ろを着いてくる。こういう間を取り持つような面倒な立ち回りは嫌いなんだけど、空気が悪くなる度に西条さんがニヤリと口元を歪めているのを見てしまってはこうせざるを得ない。まるでこちらの仲間割れを望んでいるかのような彼女の態度がどうにも気になる。一番近くにあった本棚を掴んで少し手前に引けば、本棚が微かに揺れる。うん、これなら二人くらいで倒せる。

「よし、黄瀬。せーので倒すよ」
「え、マジっスか」
「マジ。ほら行くよ、せーのっ」

ガダン、と大きな音を立てて倒れた本棚と、一瞬だけピリリと張り付いた空気。少しの沈黙の後、誰かの息を吐く音が聞こえて空気が緩む。何も起こらない、という事は倒す本棚が違うということか。それとも、全ての本棚を倒さなければいけないのか。どちらにせよ、今この一つを倒しただけでは状況は変わらないと言うことだろう。

「よし、手当り次第倒すか」
「よしじゃねぇよ。テメェいい加減にしろよ。毎回毎回勝手に動きやがって」
「い、いだい痛い、痛いって!?」
「痛くしてんだよこのバカ女」
「うえーん痛いよー!」
「クソほど下手くそな泣き真似してんじゃねえよ一人で動くなって何回言ったら分かんだよテメェは」
「なに?心配してんの?かーわいー、いだだだ!痛いって!」

倒れた本棚を見下ろしてふう、と息を吐いて顔を上げる。こっちを人一人殺せそうな目で睨みつける花宮とバッチリ目が合って、思わず古橋に助けを求めたけれど横に首を振られてしまう。頭を思い切り掴まれてギリギリと力が込められる。必死にその手を掴んで離そうとするけれど、その細い腕のどこにそんな力があるんだと思うくらいに力が強い。口も態度も荒いけど心配してくれているのは分かる。でも、心配するにしたってもう少し優しく心配してくれればいいのに。

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