花宮からの容赦のない攻撃を何とか乗り切って本棚を倒す作業に取り掛かろうとしたが、花宮達から大人しくしてろと言われてしまい少し離れた場所で本棚を倒す彼らを見つめる。少し離れた場所から感じる視線が痛いくらいに突き刺さってきて、思わず何か言いたい事でもあるのかと声をかけたくなるのを何とか堪える。視線の主はもう分かっているから警戒はしているものの、こうもガッツリ見られていると居心地は悪い。
「さっきは大丈夫だった?」
「ああ、花宮のですか。平気ですよ、いつもの事なので」
「女の子に手を出すなんて、酷い男だな。ここ、赤くなってるよ」
「え、マジすか」
ちょっと休憩、と言いながら私の隣にふらりとやって来た森山さんが私を見て首を傾げる。さっき、が何を示すのかすぐに分かって小さく笑って返せば一瞬驚いたように目を見開いた後、少し怒ったように声色が変わる。こめかみをするりと撫でられて少しだけ肩が跳ねる。まさか赤くなってるとは思わず素で驚いた声が出た。そんな私を見てクスクスと笑う森山さんが何だかちゃんと先輩に見えて、この人もちゃんと年上だったんだなあ…なんて失礼なことが頭をよぎる。
「森山ァ!いつまでサボってんだ!」
「げ、バレた。じゃあ、ここで待っててね」
「はい。ありがとうございます」
ヒラヒラと私に手を振って笠松さんの所へと戻っていく森山さんに手を振り返そうとして、ふと本棚の前に何かが落ちている事に気が付く。不審に思って手を伸ばそうとすれば、それに気付いた森山さんが駆け寄ってきて私の頭をぽん、と撫でた。
「こういうのは俺らに任せて。ね?」
「…すみません」
「いいのいいの。これでしょ?気になってたの」
「はい。何ですかね、これ」
ふんわりと笑って何かが落ちている本棚の前にしゃがみ込んだ森山さんの隣に並ぶようにしてしゃがみ込めば、そこに落ちていたのは小さな白い玉だった。まるでBB弾のような小さな玉に首を傾げていればガタリと大きな音がして、視界が一気に暗くなる。まさか、と思い慌てて視線を移した時にはもう遅く、本棚が眼前まで迫って来ていた。この状況でこれを跳ね除けるのは無理があると、ぎゅっと目を瞑って衝撃に耐えれば再び鈍い音がして静寂が訪れる。
いつになっても襲ってこない痛みに目を開ければ、私を庇うように森山さんが本棚を支えていてその表情は苦しげに歪められていた。慌てて本棚に手を当てて押し返すように力を込めれば森山さんの表情が少しだけ和らぐ。慌てたように駆け寄ってきた他のメンバーによって退かされた本棚は図書館の中でも一番大きな本棚で、恐らくそれがあったであろう位置に最も近かったのはやはり彼女だった。
「っ、アンタ…!」
「黄瀬、いいから」
「いい訳ねェだろ…ッ!」
「ずっと黙ってろって言ってないでしょ。今は時期じゃないって言ってんのよ。後で最高に面白いショーにしてあげるから今は大人しくしてな」
悔しげに顔を歪めた彼女に食ってかかろうとする黄瀬の腕を引いて止めれば、綺麗な顔を怒りに染めた黄瀬にギロリと睨まれる。はいはい、ムカつくのは分かったから落ち着きなさいよ。ムカつく奴の最高に堪らない顔、見たいでしょ?ニッコリと笑って黄瀬に向かって囁けば、驚いたように目を見開いてからぐっと言葉を飲み込んだのが分かった。
さて、どうしようか。なんて思ったのとほぼ同時だった。視界の端でゆらりと動いた複数の黒い影。反射的に振り返って距離を取る。さっきの一件で動けない森山さんと、最初から役に立たない彼女に一番近いのは残念ながら私だった。庇いながらってのはあんまり得意じゃないんだけど、と無意識に零れた舌打ちは騒がしい図書室では響かない。
「図書室ではお静かに、って習わなかった?」
ゆらゆらと大きな体を揺らして近付いてくるゾンビが大きく腕を振るう。眼前に迫るナイフを後ろに一歩引いて避け、しゃがみ込んでゾンビの視界から外れる。後ろに二人がいる以上、下がることは出来ない。ゾンビの懐に潜り込んで思い切り顎を蹴りあげて、ぐらついた胴体にも蹴りを入れる。ゆっくりと後ろに倒れたゾンビにトドメを刺そうとした、その時だった。
「きゃあ!」
「っ、な…っ、!?」
女の子らしい可愛い悲鳴と背中に感じた小さな衝撃。咄嗟に振り返れば、ぱちりと視線が交わって彼女の目にうるうると涙が浮かぶ。今まで彼女がこんなに露骨に私に関わってきたことなんて無かったのに、一体どうしたのかと一瞬だけ思考が持っていかれる。それが彼女の狙いだったのかもしれない。大声で呼ばれた私の名前と、すぐ真横で動いた黒い影。そして、側頭部に走った激痛と衝撃。
「ぁ、ぐ…っ、」
「葉月!!」
思い切り地面に叩きつけられた体も大概痛いけれど、殴られた頭の方がもっと痛い。優しく抱き起こされて誰かに何度も呼びかけられるけれど、目が開かない。