「どーも、お久しぶりです」
「悪いな。急に呼び出して」
「大丈夫ですよ。それで要件は?」
「この男について調べて欲しい」
「…あぁ。この人NOCですよ、確かMI6の」
「まさか全員覚えてるのか?」
「そんなわけないでしょ。たまたま覚えてただけです。まあ、確証はないので後で確実なデータを送りますよ」
「すまない。助かる」

私をカフェに呼び出したのは降谷さん。一枚の顔写真を見せられ、どこかで見たことがあるなと思えばNOCリストに載っていた一人。それを口にすれば驚いた様な顔をするけど私は生憎そこまで万能じゃない。顔写真を手帳に挟んで鞄に入れて、降谷さんと向き合う。

「コードネームをもらっただけじゃ満足出来ずに更に潜り込もうって腹積もりですか」
「よく分かったな」
「どうせこの男もコードネーム持ち、なんでしょ」
「あぁ。分かってて手を貸すのか」
「1より10ですから」
「それは心強いな」
「それに個人的に降谷さん贔屓なんで」
「…?俺を?」

不敵に笑う降谷さんに負けじとニヤリと笑って返す。私の言葉にキョトンとした顔をする降谷さんにこれ以上は言いませんと言わんばかりに笑ってカップに口を付ける。それを察したのか肩を竦めた降谷さんに満足そうに笑って見せる。理解が早くて助かります。

何で私が降谷さん贔屓か、と言うと純粋に前世で推しキャラだったからだ。何とも単純で、何とも不純なもの。降谷さんを贔屓したからと言ってどうなる訳でもない。というか、贔屓と言ってる割には降谷さんと会う率は壊滅的に低い為、正直なところよく会いに来る萩原さんや松田さんの方がよっぽど贔屓されてる感はある。

「私を呼び出した理由はこれだけですか?」
「それから…毛利小五郎、と言う男を知ってるか?」
「知ってますよ?何なら知り合いです」
「近々、その人に接触しようと思ってる」
「…目的は?」
「組織から逃げ出したシェリーの保護の為だな」
「保護っていうのは勿論こちら側として、ですよね」
「あぁ、もちろん」
「ならいいです。潜り込みすぎてNOCの疑いをかけられないように気をつけてくださいね」
「あぁ、わかっているさ」

突然出された幼い頃から面倒を見てもらっていた人物の名前を出されて指先に力が入る。チラリと降谷さんを見て理由を問えば返事は理想のもの。最後の言葉は降谷さんの身を案じて言ったもの。原作の通りなら、キュラソーの一件で彼はかなり危ない立場になる。私が介入している事で多少なりともストーリーに変化が出ている以上用心しておくに越したことは無い。

「これから会う時は安室透、として接して下さい」
「…ふっ。随分優男ですね。女の子とっかえひっかえしてそうですよ」
「心外ですね。これでも一途なんですよ」
「どうだか。じゃあ、私は行きますね」
「はい。次はポアロで」

一瞬で安室透に変わった降谷さんにさすがだな、と思いながらカップに残ったコーヒーを一気に煽る。千円札をテーブルに置いて立ち上がり、安室さんに笑いかける。降谷さんじゃお目にかかれない綺麗な作り笑いを返してくる安室さんに吹き出しそうになるのを堪えてカフェを後にした。

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