名探偵コナンの世界に転生したことを知ったのは8歳の時。施設送りにされそうなっていた私の元に颯爽と現れた人を見て驚いた。「なんで工藤有希子がここに…?」と思わず声に出そうになって慌てて口を噤んだのは今でも覚えてる。私が引き取られたその年に新一が生まれて、私は姉になった。

原作を思い返して死ぬはずのキャラを死なせまいと奔走したのもいい思い出だ。まあ、純粋に家族を失うのはもう二度と経験したくなかった。だから組織によって新一が死ぬことは阻止したい。その為にも味方を増やしておきたかったのだ。そして、今日この日は工藤新一がいなくなって、江戸川コナンが現れる日。つまり、原作が始まる日ということ。仕事を早々に片付けて職場を飛び出す。

「あれ、まだ帰ってきてないんだ」

家に着いて見てみれば家の明かりは付いておらず、人の気配もない。帰ってくるまで待っていようとスーツから部屋着に着替える。コーヒーを飲もうとキッチンでお湯を沸かしていると小さくガチャリと玄関の扉が開く音がする。音を立てないように家に入ってくる新一に思わず笑いそうになるが、何とか抑えてマグカップにお湯を注ぐ。

「阿笠博士?どうしたの?」
「お、おお!なまえくん!久しぶりじゃのう!」
「この間会ったのに?」
「そ、そうじゃったかのう?」
「まあ、いいけど。新一は?まさか博士一人でコソコソ入ってきたわけないでしょうし」

マグカップを持ってキッチンを出るとそこにいたのは阿笠博士だった。私の顔を見てやばい、と言わんばかりの表情をする博士。分かりやすすぎないか。新一の所在を聞くとあからさまに目が泳いで言葉に迷い始める。

「博士、俺からちゃんと説明する」
「新一!?」
「あら、随分ちっちゃくなったのね」
「…疑わねえのかよ」
「何を?」
「高校生が小学生になるなんて普通ありえねえだろ」
「まあ…突飛な事ではあるけど実際に目の前で起きてる事だから。それに…」

そこで言葉を切って、小さくなった新一の前にしゃがみ込む。眉間にシワを寄せて、小さかった時の服を着てる新一は思ったよりも可愛くて頬が緩む。「小さい新一可愛いからいいかなって!」そう言ってぎゅうっと抱きしめる。離せ!と腕の中でもがく新一をぎゅうぎゅうと抱きしめていると玄関から蘭ちゃんの声がする。

「…蘭ちゃん来たけど」
「ど、どうすんだよ!」
「知らないわよ」
「とにかく隠れろ!新一!」

蘭ちゃんの訪問に慌てる二人を眺めながらさっき入れたコーヒーを飲む。少し冷めちゃった。レンジでチンしてこよ。キッチンに入ると部屋で博士と蘭ちゃんが話してる声が聞こえてくる。レンジにマグカップを突っ込んでスイッチを押す。少しすると温め終了の合図が鳴って、中からマグカップを取り出せばふわりとコーヒーの匂いが鼻を抜ける。

「ハァイ、蘭ちゃん」
「なまえちゃん!?」
「この間ぶり〜」
「なまえちゃんがいるなら私が預からなくても…」

蘭ちゃんの言葉で今の状況をなんとなく察した私は博士や新一が口を開くより先に口を開く。

「私が預かってもいいんだけど、仕事で遅くなったりすることあるからさ。一人でこの家に長時間置いておくのは心配なのよね。蘭ちゃんが預かってくれると私も心配いらないし、お願いできないかな?」

そう言えば少し考えるような顔をする蘭ちゃん。博士はよくやった!と言わんばかりに顔を輝かせていて、新一は余計なこと言うんじゃねえ!みたいな顔をしていた。そんな新一に博士が何かを耳打ちする。その途端、僕お姉ちゃんの家がいいー!と蘭ちゃんの足に抱きつく新一。さすが大女優の息子。演技派ですこと。

「またねー!博士!なまえ姉ちゃん!」
「またなー!コナンくん!」
「また遊びにおいで、コナンくん」

蘭ちゃんと手を繋いで歩く新一、もといコナンくんを見送って博士に向き直る。私が席を外した数分で起きた出来事を博士から聞けば原作の通りだったようで。彼は今日から江戸川コナンになったようだ。いつも思うけど、中々すごい名前だよねえ。新一のスマホに「後で連絡してね」とメッセージを送り、博士を見送って夜ご飯の準備を始める。

「まさか、このデカイ家で一人暮らしとは…」

誰か同居人が欲しいな、なんて思う日が来るとは思ってもいなかった。ましてや、この願いが近いうちに叶うことになるなんてもっと思っていなかった。

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