「なまえ姉ちゃん!?」
「あ、おかえり。コナンくん。放課後ちょっといい?」
「大丈夫だけど…」
「コナンくんのお知り合いですか?」
「わー!綺麗なお姉さん!」
「コナンの母ちゃんか?」
「コナンくんのお母さんにしては若すぎますよ!」
「じゃあコナンくんのお姉ちゃんかな」

小学校の前。壁に寄りかかってスマホをいじっていれば横から飛んでくる驚きの声。スマホをポケットに閉まって声の方を見れば目を真ん丸にした新一の姿。周りには女の子が二人と男の子が二人。少年探偵団の皆が勢揃いだった。

「コナンくんの親戚のお姉ちゃんです。さすが、少年探偵団ね」
「僕達のこと知ってるんですか!」
「ええ。優秀な探偵さん達に会えて嬉しいわ」
「えへへ。でもね、コナンくんが一番すごいのよ!」
「少年探偵団のリーダーは俺だけどな!」

しゃがみ込んで子供達と話をする。灰原哀ちゃんだけは少し私と距離をとっている。まあ、片足くらいは組織に突っ込んでるし職場の規定違反に関しては常習犯の私からは多少なりとも黒の匂いがするのだろう。

お世辞ではなく、純粋に彼ら少年探偵団の事はすごいと思ってる。いくらコナンの姿だとしても新一の行動について回って一緒に事件解決してるんだから優秀じゃ無いわけじゃない。そんじょそこらの小学生よりよっぽど優秀だ。

「さて、と。今日はこの後用事があるの。またお話しましょう?」
「えー!もう行っちゃうの?」
「今度は私の家でゆっくり、ね?」
「わかりました…」
「良い子の皆にはご褒美。はい、これあげる」
「いいのか!?姉ちゃん!」
「今度はもっと美味しいお菓子をご馳走するわ。じゃ、またね」

立ち上がった私に寂しそうな目を向けてくる少年探偵団の皆に心を痛めつつ、鞄に入れていた飴を一人ずつあげる。バイバイ、と手を振ってコナンくんの手を引き歩き出す。私と手を繋ぐのが嫌なのか恥ずかしいのか、曲がり角を曲がった瞬間手を振り払われる。

「ったく…何しに来たんだよ」
「パパとママに盛大にドッキリを仕掛けられた弟を慰めに?」
「はあ!?知ってたのかよ!」
「あ、私は止めたからね?」
「もっとちゃんと止めてくれよ…ほんとに死ぬかと思ったんだぞ…」
「あ、はは…お疲れ様」

私と向かい合って不機嫌な顔をする新一にクスクス笑う。私があの悪戯を知っていたことが分かると額に手を当てて心底疲れたような顔をするもんだから、揶揄ってやろうと思っていた気持ちはどこかへ行った。思ったより新一の精神ダメージは大きかったようだ。

「で?何かあんだろ」
「何かって?」
「さっきのだよ。わざわざ仕事用の顔してまで来た理由は?」
「あぁ。新一の同級生を見たかったのが4割、転校生の女の子が見たかったのが5割、パパ達に悪戯された新一を慰めようと思ったのが1割、かな」
「禄な理由が一つもねえじゃねえか」
「あら、可愛い弟の交友関係が気になるのは当然でしょう?」
「よく言うぜ。揶揄いに来ただけだろ」
「あちゃ、やっぱりバレてるじゃん。さっすが名探偵」
「茶化すなよ。姉さんの方がよっぽど名探偵だろ」
「…へ?」

さっきまで和やかな会話だったのに、突然スッと目を細めた新一に歩いていた足をピタリと止める。まるで前から疑ってました、みたいな顔をする新一につくづく名探偵は怖いなと肩を竦める。

「前々から思ってたんだ。姉さんはあまりにも知りすぎてる。さっきだってそうだ。俺は家で探偵団の話はしたことが無いし、転校生といつも一緒にいるなんて言ったこともない。何一つ姉さんには話してないのに、姉さんは探偵団の存在も、アイツと一緒にいることも分かってた」
「…ほんと、さすが名探偵。それで?名探偵さんの答えは?」
「まさか、組織の人間じゃねえよな」
「はい、ハズレ。前言撤回ね、まだまだな探偵さん」
「…は?」

ピリリとした空気の中、新一が出した答えを聞く。予想通りの返答にけらけら笑って返事をすればキョトンとした顔をする。組織の事に片足突っ込んではいるけど、組織の人間ではない。私が何者であるかを探りたいなら私の出生より前に遡らなきゃいけない。けれどそんなこと絶対に無理。つまり、私が本当は何者であるかを特定する手段をこの世界の人は持っていない。

「でも、着眼点は良いね。私が知りすぎている理由はいつか分かるよ」
「…ほんと、姉さんには叶わねえな」
「お姉ちゃんだもの。簡単に弟に抜かれたりしないわよ」
「絶対正解まで辿り着いてやるよ」
「楽しみにしてる」

好敵手に向けるような年相応の目に思わず笑みが零れる。簡単に抜かれたりしない、なんて言ったけれどこれじゃあ抜かれるのも時間の問題かな、なんて。

.


ALICE+