新一が前々から私を疑っていた、ということはパパとママも少なからず私に対して疑問を抱いていたことはほぼ確定。だとしたら何であの人達は私を問い詰めることをしなかったのだろうか。

「親の気持ちってやっぱり親にならなきゃ分からないよねえ…」
「どうしたの?急に」
「萩原さんは私に対して知りすぎてる、って思ったことあります?」
「そりゃあ、初めて会った時から思ってたよ。まるで未来を知ってるかのような口ぶりだったからね」
「ですよね。知ってました」
「まあ、そんななまえちゃんだから俺も松田も助けられたんだけどな」
「…褒めても何も出ませんよ」
「それは残念」

テーブルに額をくっつけてポツリと呟けば目の前に座っていた萩原さんが首を傾げる。純粋に疑問をぶつけてみれば当然と言わんばかりの顔で返事が返ってくるもんだから、こっちもですよねと言わざるを得なかった。

萩原さんに出会ったのは七年前の高校三年生の時。萩原さんが死ぬことになる爆発事件が起きることは知っていたから前もって博士に作っておいてもらった通信抑止装置を持って米花町にあるマンションを見て回っていた。

やっぱり私も事件ホイホイなのか、ドンピシャで爆弾処理班と思しき人達がマンション前に集まっているのを見つけた。そこには萩原さんと松田さんがいて、萩原さんは防護服を着ていなかった。やっぱりあの人馬鹿なのかと思いながら近づく。近くの警官に止められたけれど全てを無視して二人の前に立った。

『工藤なまえです。何も言わずに防護服を着て、これを持って爆弾解除に向かって下さい。使い方、分かりますよね。それから、住民の避難を優先させると確実に手遅れになります。ちゃちゃっと解除してきて下さい』

そう言った私に周りの警官達は何を言ってるんだ、だとか一般人は下がってろだとか言っていたけれど、それを松田さんが制して私を見た。萩原さんも真剣な目で私を見ていて、この二人は私の言葉を受け入れてくれると何となく思った。

『どういう事だ』
『何に対しての疑問ですか?』
『全部、かな。それよりコレは?』
『通信抑止装置ですよ。今回の爆弾解除に絶対必要になる物です』
『なるほど。じゃあ、どうして君はここに爆弾がある事を知っているの?』
『知っているんじゃなくて、知っていたんですよ』
『それは…』
『とにかくソイツの事は後回しだ。さっさと解除しに行くぞ』

そこにいろよ、と私に言って松田さんは萩原さんを連れてマンションの中に入っていった。松田さんが此処にいるように私に指示したせいで、警官達は私を邪険にすることが出来ずに困ったような顔をしていたのは今思い出しても笑える。

しっかり解除して戻ってきた二人に散々質問攻めにされることは分かっていた。けれど私の答えはただ一つ、「A secret makes a woman woman.」そう言えば首を傾げる二人に電話番号とメールアドレスを渡して「また、4年後に」と、そう言って私はその場を立ち去ったのだ。

4年後、私たちが再会したのは観覧車の前。覚えてますか?と笑った私にお化けでも見たかのような顔をした二人は今でも鮮明に思い出せる。けれど、爆弾解除のタイムリミットが刻一刻と迫る中、ゆっくり会話をしてる余裕はなくて。慌てて観覧車に乗り込んだ二人を追いかけて私も観覧車に乗り込んだ。

『おま…っ!何で乗ってんだよ!降りろ!』
『いや無理でしょ。早く爆弾開けてください』
『ほんと、肝の座った子だねえ』
『中の電子パネル外せます?あ、コードはそのままで』
『どうするつもりだ?』
『解析するんですよ。もう一つの爆弾設置場所は…出た。米花総合病院』
『えっ…え?ちょ、どういうこと!?』
『企業秘密です。これで、後は解除して米花総合病院の爆弾も解除すればオールクリアです 』

爆弾に近い場所に座ってパソコンを開く。有難いことに電子パネルの中身は至って単純。初めから表示するつもりの文字の部分しか光らないようになっていた。つまり、意図的にこのパネルを光らせれば次の爆弾の在処が分かる。これさえ分かってしまえば後はこの二人が何とかしてくれる。

案の定神がかり的なスピードで爆弾を解除し、次の爆弾が米花総合病院にあることを仲間に伝えた二人は椅子に座って私をじっと見つめる。当然聞きたいことは私が誰で、何者なのか。この二人は確実に組織壊滅に手を貸してくれると信じ、私の職業を告げる。初めて会った高校三年生の時にはもう既にスカウトがきていた事も付け加える。

私が色々知っていることについても、それで納得したのかそれ以上問い詰めては来なかった。それから、何度か一緒にご飯を食べに行ったり事件についての情報提供を求められて、情報を提示したりしていたら仲良くなってしまっていた。

「今日松田さんは?」
「この後来るって言ってたよ?あ、噂をすれば」
「お疲れ、松田さん」
「お疲れ。てめえ萩原…書類仕事全部置いてってんじゃねえよ!」
「あり?バレちゃった?」
「なーにがバレちゃった?だよ!誰がお前の分まで働いてやったと思ってんだ!」
「わー!ごめんて!でも、さすが松田〜!ありがと!」
「まじで死にたいのか?ん?」
「二人共うるさい」

萩原さんとまったりしていれば、カフェの扉が荒々しく開けられる。そこに立っていたのは息を切らした松田さん。ツカツカとこっちに歩いてきて萩原さんの胸ぐらを掴んで文句を言い始める。止めてやろうかと思ったけど話を聞けば圧倒的に萩原さんが悪いのでフォローはしない事にした。けれどあまりのボリュームに指摘すれば静かになる。

「なんで松田がなまえちゃんの隣に座ってんのさ」
「ボックス席でわざわざお前の隣に座る理由の方が分かんねえよ」
「俺もなまえちゃんの隣がいい!」

静かな時間が3分と持たない彼らの喧嘩の種を増やさない為にも次からはカウンター席に座ることを決めた。

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