「こんにちは。一人?」
「…ええ」
「てっきり新一と一緒にいると思ってたんだけど」
「っ!どうして…あなた…」
「あ、大丈夫よ。あっちに片足突っ込んでるけどあっち側の人間じゃないから」
「片足って、どういうこと?」
「んー…ここじゃ目立つし、場所変えようか」

久しぶりにショッピングでもしようと街を歩いていればついこの間見たばかりの後ろ姿を見つけて、思わず声をかける。私を見てビクリと肩を揺らした彼女に苦笑いをしながら新一の名前を出せば一層警戒心が強くなる。ううん…何か野良猫を相手にしてるみたいだ。

私の匂いと言葉に引っかかる節があったのか、提案に乗ってくれた彼女と共に歩き出す。私がよく行く小さなカフェに入っていつもの席に座る。このカフェのデッドスペースになっている此処は誰の目も入らない場所だ。マスターにカフェラテとブラックコーヒーを頼んで席に座る。私の向かいに恐る恐る座った彼女は私の目を見ようとしない。

「えーっと、この間はコナンの親戚のお姉さんって言ったんだけど。新一の姉のなまえです」
「工藤くんの…?」
「そう。だから新一がコナンになった事も知ってるし、組織の事も新一から聞いてる」
「…でも、それだけじゃないんでしょ?」
「あー…っと、国際情報センターって聞いたことある?」
「ええ。表向きは各国の情報を管理してるけど、裏では各国の機密事項を管理してるって聞いたことがあるわ」
「半分当たりで半分はずれかな。私が所属してるのは国際情報センターの世界情報管理0課、つまりこの世界の全てを知っている課。世の中では存在しないとされてる課なの」
「組織にいた頃に噂には聞いていたけど…まさか実在するなんて…」

私の職業を聞いてバッと顔を上げた彼女の表情は驚き。1課と2課は普通に存在する課だけど0課はそうじゃない。表の情報から裏の情報までこの世界の全てと言ってもいいレベルの情報を持っている。勿論、バレないように他国や他組織から拝借した物の割合が高い。

「どうして私にこの話を?」
「手を貸して欲しいの。例の組織を壊滅に追い込む為に今沢山の人が動いてる。組織を壊滅させられたとしても、新一を元の姿に戻す為には貴女の力が絶対必要になる」
「私にあの薬の解毒役を作れってことね」
「勿論、タダでとは言わない。貴女のお姉さん、世間一般的には死んだことになってるけれど実際は生きてるの」
「お、ねえ…ちゃんが、?」
「知り合いに頼んで何とかしてもらったの。組織を潰せれば貴女はお姉さんと普通の生活が送れるようになる。悪い話じゃないでしょう?」

ズルい、と思う。この子にとって姉は唯一の身内。大好きな姉と二人、普通の生活が送れるようになるなんてYesと言わない訳が無いと確信があったから、この話を持ちかけた。組織に殺されるより前にこちらで死んだように細工をさせてもらった。情報操作は私が、実行犯は勿論死んだことになっているお陰で暗躍しやすい油井さん。現在、お姉さんの身柄は赤井さんの口添えによってFBIで保護されている。

「…分かったわ」
「その言葉が聞きたかったの。私の事は新一には内緒にしてね。あの子は私が何をしているのか知らないから」
「どうして、言わないの?」
「言ったら確実に危険なことに首を突っ込むから、ね。ただでさえ危なっかしいのにこれ以上弟を危険な目に合わせたくないから」
「そう…。私は彼に貴女の正体を言わなければいいのね」
「うん。当分はそれだけを頑張ってくれればありがたいかな」

姉が生きている、その言葉がどれほど彼女にとって嬉しい言葉かは表情を見れば分かる。初めて会った時より、確実にトゲがなくなった彼女を見ながらカップに口をつける。両手でカップを持ってカフェラテを飲む彼女に、今度は仕事としてではなく、工藤なまえとして話しかける。

「ねえ、哀ちゃんって呼んでもいい?」
「?別に構わないけど…」

不思議そうな顔をしながら了承の返事をくれた哀ちゃんに嬉しくなって口角が上がる。ニコニコする私にキョトンとした顔をする哀ちゃんが本当に小学生みたいでもっと頬が緩む。明美ちゃんが『ほんとは素直ですっごく可愛い子なんだよ』っていつも言っていたけど、本当にその通りだった。

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