「あなた、何様のつもり?」
「ふっ…くっ…ん''んっ」

予想通りの展開に思わず笑ってしまった。誤魔化すように咳き込んだけど目の前の先輩方の視線が一層きつくなった。まさか嫌がらせの類を一切スルーして呼び出しを食らうとは思ってなかった。先輩たちの表情からなんて言われるかを予想してたら、予想と同じセリフが飛び出してきたもんだから笑わない訳が無い。

「何がおかしいのよ!」
「あ、いや、すみません。何でもないです。どうぞ、続けてください」
「ふざけないで!」
「っ、たぁ…」
「先輩が貴女みたいな子本気にするわけないでしょ!」
「それなのに本気にして、その上先輩を振って恥かかせるなんて!」
「先輩が可哀想だと思わないの!?」

笑った事を咎められ、素直に謝って続きを催促するとリーダーっぽい先輩が目を釣り上げて右手を振り上げた。やばいと思った時にはバチンと頬に衝撃。じわりと口の中に血の味が広がる。例のナンパ事件の時に比べたら全然痛くないけど、痛い。というか、私殴られる率高すぎる気がする。目の前でギャンギャン喚く3人の先輩達を眺めながらどうやってこの場を回避しようか頭を働かせる。

「お話、終わりました?」なんて言ったら絶対また文句言われるし、かと言って黙ってると「何とか言ったらどうなの!?」とか何とか言われるだろう。にしても、あの男が私に告白したのは何かの罰ゲームで、罰ゲームの告白を本気と勘違いした私が真面目に返事をして先輩の顔に泥を塗ったことになっているようだ。よくもまあ口が回るものですね。言い訳のプロって感じ。

「ちょっと聞いてるの!?」
「あ、すみません。全然聞いてませんでした」
「貴女ねえ…!ふざけてるの!!?」
「ふざけてはいないんですけど、早く帰りたいなとは思ってますね。先輩達は私を呼び出して、文句を言って、最終的にどうしたいんですか?」
「はぁ?何言ってんの?」

穏便に、かつ早々に切り上げたいところだけど、何も言わない上に表情を一切変えない私にヒートアップした先輩達の口はどんどん悪くなる。男たらしだのビッチだのブスだの何だの。悪口レベルが小学生な上に、何がしたいのか全くわからない。いつまでもこんなくだらないことが続くのも時間の無駄だと、口を開けば突然ぺらぺら話し出した私を先輩たちは怪訝な目で見る。

「貴女たちが私に腹を立てていることよく分かりました。ただ、何の為に私をここに呼んだのかが理解できないんです」
「そんなのアンタを身の程を弁えさせるために決まってるでしょ!」
「先輩はアンタのことが好きなわけじゃないわ!思いあがらないで!」
「アンタみたいな勘違いしてるバカ女が一番迷惑なのよ!」
「はぁ…全部、そっくりそのままお返しします」

埒が明かない、と私の目の前で喚く先輩たちに問いかければ物凄い勢いでまくし立ててくる。その言葉に思わずため息がでてしまった。この先輩たち、恐ろしく馬鹿だ。罰ゲームだろうが彼が私に告白してきたことは事実。彼が校内NO.1の人気者なら罰ゲームで好きでもない子に告白なんてリスキーなことしないだろう。もし、好きでもない子に「先輩は私のことが好きなんだ!」なんて勘違いされる展開になったら困るのは確実に彼だ。そう考えれば彼が罰ゲームで私に告白するとは考えにくい。

それに、身の程も何も私は彼と接点があるわけでもなければ彼と話したことすらない。私のことが好きじゃないなら何故告白なんてしてきたのかも甚だ疑問だ。それに勘違いしてるバカ女、って言葉に関してはそっくりそのまま返したい。彼女達は先輩の何なのか。自分が彼にとって近い存在であると思っているのならそれこそとんだ勘違いしてるバカ女だ。彼が何をしようと彼女たちがその行動や言動に対して咎める権利はどこにもない。

「つまり、私が貴女たちに咎められる理由は一つもないってことです。それじゃ、私はこれで失礼します。さようなら」

ため息をついた後、怒涛の反撃をした私に何も言葉を返せない先輩達がキョトンとして私を見る。たっぷり時間をかけて自分たちが馬鹿にされていることに気づいた彼女たちの顔が憤怒の色に染まる頃、私はもう既に学校を出て迎えに来てくれていた松田さんの車に乗っていた。あれだけ言えば私に口で勝てないと理解するだろうし、口で勝てないなら物理的に攻撃してくるだろう。それはそれで楽しみだし、受けてたってやろうと笑う私を松田さんが呆れた目で見ていた。

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