「海?」
「あぁ」

夏休みに入って一週間。特にすることもないし、遊びに行く友達もいないので家にいた私をいつものファミレスに引っ張り出したのは珍しくも松田さんだった。海行くか?なんて言われて思わず間抜けな声が出た。

「松田さんからのお誘いって初めてだね。海、行きたかったの?」
「お前、この間行きたいって言ってただろ」
「えっ、それで誘ってくれたの?」

松田さんも意外と夏には海とか祭りに行きたがるタイプの人なのかな、と思って聞けばそうではなかったようで。私が夏休み前に萩原さんと夏といえば、なんて会話をしていたのを聞いていたらしい。ちなみにその時真っ先に夏といえば海と言ったのは私だ。

「行きたくねえの?」
「行きたい!」
「んじゃ、明後日迎えに行くから準備して待ってろよ」
「明後日って…じゃあ、今から水着買いに行くから車出してー」

松田さんの言葉に食い気味に返事をすればクツクツ笑われる。来週とかならまだ分かるけど明後日は急すぎる。もっと前に連絡して欲しかったけど、用事があるわけじゃないから良いことにする。ただし、水着がないのは困る。この時間に私を連れ出しってことは、今日は非番もしくは半休なのだろうと足になってくれるよう頼む。

「…お前ほんとに遠慮なくなったよな」
「嫌?」
「いや、そんくらいの方が高校生らしくて可愛いんじゃねえの」
「…左様ですか」

私のお願いに目を丸くした松田さんに態とらしく首を傾げて見せればふっと笑って頭を撫でられる。プラス恥ずかしいセリフ付き。笑顔で可愛いなんて言いながら頭を撫でられて照れない女はいないと思う。ただでさえ顔が良いのにこういう事を無意識にさらっとやるから松田さんはタチが悪い。

「松田さん、悪い大人だね」
「は?」
「なーんでもない。ほら、水着買いに行こ」

ジトリと松田さんを見ながらポツリと言葉を漏らせばキョトンとした顔をされる。普段は鋭いのに本当にごく稀にこういうことをするから破壊力がすごい。テーブルに置かれた伝票を持って立ち上がれば不思議そうな顔でついてくる。勿論、財布を出そうとする私に車のキーを渡して自分が会計をするスマートさに、また間抜けな声が出た。

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