松田さんと海に行った翌日、萩原さんから電話が来た。内容は言わずもがな昨日のこと。何で誘ってくれなかったのか、と騒ぐ萩原さんだったけどその日は仕事だからと言っていたのはどこの誰だったか。海なんて行こうと思えばいつでも行けるし、わざわざ有給消化してまで行かなくてもいいだろうと思ったのだが、ダメだったらしい。

「また今度行こうよ」
「今度っていつ?」
「来年、とか?」

私の言葉に長いよ、とテーブルに頬を付けて突っ伏す萩原さんの頭をとりあえずポンポンと撫でておく。見た目通りサラサラの髪の毛に感動しながら手を動かす。嫌がっている様子が見られないのをいい事にわしゃわしゃと髪の毛をかき混ぜれば、さすがにストップの声がかかる。

「めっちゃぐしゃぐしゃなんだけど」
「いや、思ったより触り心地良くて。シャンプー何使ってんの?サラサラすぎてキモイんだけど」
「えっ、酷くない?」
「羨ましい、むかつくー」
「なまえちゃんもサラサラじゃん」
「嫌味ですかこのやろー」

手櫛で髪の毛を直す萩原さんを見ながらストローをくわえる。中身がなくなって氷だけになっているせいでずずー、なんて行儀の悪い音が鳴る。でも、この音は私の心境だ。くそう…なんでそんなにサラサラなんだよ…。私の言葉に苦笑いしながら私の髪の毛に触れる萩原さん。

「髪伸びたねー」
「だよね。そろそろ切ろうかなって思ってた」
「え、切っちゃうの?」
「だって邪魔なんだもん」
「俺、長い方が好きだなあ」
「…じゃあ伸ばす?」
「うん。伸ばそ?」

私の髪の毛を触っていた萩原さんが唐突に口にした言葉に少し前から考えていた事を話せば不満気な顔をされる。海に行った時に松田さんにも同じことを話したらどっちでも好きなようにすれば?と言われたから切る気でいたんだけど。萩原さんがそう言うなら、と言えば萩原さんがゆるりと笑う。

「最近笑顔がだらしなくなったよね」
「ねえ、今日当たり強くない?」
「前よりほんとに笑ってるって感じがしていいよ。今の方が好き」
「もぉ…またすぐそうやって…」
「ほんと、萩原さんこういうの弱いよね」

今までの笑顔が作り笑いだった訳じゃないけど、どこか距離のある笑顔だったけどあの日以来今みたいにゆるりと笑ったり、へにゃっと笑ったりすることが増えた。個人的には最近の笑顔の方が萩原さんらしくてすごい好き。私の言葉に固まった後、またテーブルに突っ伏してしまった萩原さんにニヤリと笑って頭をつついた。

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