『なまえさん?うちにそんな子はいませんが…』

その言葉に頭を殴られたような衝撃を感じた。両親に電話をかけて「もしもしママ?元気?」と聞けば戸惑ったような返事が来た。だめだ、電話を切れ、これ以上はだめだ。頭の中でガンガンと警報が鳴り響く。震える声を押し殺して「娘の声も忘れちゃったの?」とおどけて言えば返ってきたのは冒頭の言葉。

「ごめんなさい、間違えちゃいました。失礼します」

そう言って電話を切る。震える手からスマホが滑り落ちて床に衝突する音が聞こえる。何が何だか分からなかった。声は確かに母だったし、家の電話番号だって間違えてない。けれど、私の家族は"いなくなった"。未だに震える手でスマホを取り、実家の住所を検索する。出てこない。住所の一部を米花町に変えて再検索をかける。地図アプリの航空写真で見ても私の実家は確かに存在する。けれど、そこはもう私の"家"じゃない。

「友達も家族も、みんな、いないんだ…」

スマホに入っていた大学の友人の連絡先は全て消えていた。勿論、家族の連絡先もない。私のスマホに入っている連絡先はゼロ件。私に関わった人全てが私と関わりのない人に変わった。この世界は私が住んでいた世界じゃない。ここは違う世界なんだ。頭では理解しているけれど、心が、体が、理解するのを拒む。

わからない。

わかりたくない。

なんで。

どうして。

頭の中で文字が、言葉が飛び交う。ぐにゃり、視界が歪んで、ぽたりと何かが床を濡らす。一度零れたそれはぽたり、ぽたりと零れ始める。頬に手を当てれば、冷たいそれが掌に触れる。何故か冷静な頭で「ああ、泣いてるのか」と思う。目から溢れる涙は止まらないのに、声は出なかった。

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