「親、いなくなったんで。心配する人もいないし、大丈夫です。気遣ってくれてありがとうございます」

そう言ってぺこりと頭を下げれば二人は微妙な顔をする。実の所、それ以外に言葉が見つからないのだ。両親は確かに生きている、けれど私の両親ではなくなった。本来いたはずの両親が"いなくなった"のだ。その言い回しに鋭い二人は違和感があるのだろう。

「でも、この時間に高校生をここから一人で帰すっていうのはちょっとね。だから、俺達を助けると思ってここは送られてもらえないかな」
「…ずるい言い回しですね。断らせる気ないでしょう?」
「あ、バレちゃった?」
「はぁ…分かりました。家の近くのコンビニまで、お願いします」
「うん。りょーかい!ありがとね」

一人で帰ろうとする私に屈んで目線を合わせる長めの髪の人の言い方に肩を竦めて見せれば、彼も肩を竦めて笑ってて。家まで送らせる気はないから、近くのコンビニまでと言えば笑って、また私の頭をポンと撫でる。本当は少し飲んでから帰る予定だったらしい二人は近くに車を停めていた。長めの髪の人が運転席、助手席に私、後部座席にサングラスの人が乗る。とりあえず大体の場所を伝えれば車が動き出す。

「そうだ。名前何ていうの?俺は萩原研二で、後ろのが松田陣平」
「あ、みょうじなまえです」
「なまえちゃんか。可愛い名前だね」
「研二さんもかっこいい名前ですね」
「おおう、そうくる?」
「やられっぱなしは癪なので」
「ははっ、それは怖い」

車が走り出してすぐ、流れるように名前を聞いてきた萩原さんに答える。言われたことをそのまま返せばクツクツと笑っていた。怖いなあ、と笑う萩原さんに声をかけようとした私に後ろから声が飛んでくる。

「みょうじ、いくら俺達が警察だからって初めて会った男の車にホイホイ乗るのは感心しねえな。さっき絡まれたばっかだろ」
「松田さん達とあの男の人が共犯だったって事ですか?」
「そういう意味じゃねえ。わかってんだろ」
「二人は大丈夫だと思ったからですよ」
「なになに?何で?」
「女の勘、です」

やっぱり松田さんは優しい人だ。茶化すように口を開けばグッと眉間にシワが寄る。でも、この二人はそんな事しないって分かる。だからこうして車に乗ってるのだ。まあ、これが演技だとしたらものすごい演技力だし、しょうがないと思う。私の言葉に松田さんは納得いかないみたいな顔をしてて、萩原さんは女の勘かと笑っていた。

「送ってくれてありがとうございました」
「ほんとにここでいいの?家まで送るよ?」
「すぐそこなんで大丈夫ですよ」
「みょうじ、これ登録しとけ」
「へ?あ、はい」
「あ、松田ずるい!俺も!」
「これ…連絡先、ですか」
「次、あんな所にいたら補導するからな」
「それは…勘弁したいですね」
「寂しくなったらいつでも萩原さんに連絡しておいで」
「…ありがとう、ございます」

車から降りようとした私を松田さんが引き止めて何かのメモを渡す。萩原さんはそのメモがなんなのかすぐに気づいたようで慌てて自分の手帳にメモしたそれを渡してきた。折りたたまれていたそれに書いてあったのは11ケタの数字とアドレス。

次はないぞと不敵に笑った松田さんも冗談めかして言った萩原さんにも、全て見透かされているような気がして。車から降りて二人を見送ってもう一度貰ったメモに目を落とす。随分優しい警察だなあ、と折りたたんだメモをポケットに閉まって歩き始めた。

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