「…何してるんですか」
「あ、なまえちゃん。久しぶり〜」
「久しぶり〜じゃないですよ。何してるんですか、萩原さん」
「何ってなまえちゃんのこと待ってたんだよ?」
「待ってた?何で…」
「何でって、なまえちゃんがいつまで経っても連絡してきてくれないからだよ!」
「…すいません。何か用もないのに連絡するの、躊躇っちゃって」
「だからこうして直々にお迎えに来たってわけ」
「お迎え?」
「そ!ほら、乗った乗った!」

いつものように家に帰ろうと学校の玄関を出てすぐ、校門がやけに賑わっているのは分かってた。けど、まさか萩原さんが来てるなんて思っていなかった。人混みをすり抜けて、帰ろうと思ったけどバッチリ目が合った彼に思わず話しかけてしまった。周りの女子生徒達の視線が刺さりに刺さって痛いくらいだ。萩原さんの言葉に思わず吃る。

関わってやろうとは思った。思ったのだけれど何もないのに連絡するのが躊躇われて、連絡できなかったのだ。正直に打ち明ければ萩原さんは待ってましたと言わんばかりにニッコリと笑う。その笑顔に何か嫌な感じがして、一歩足を引く。いつでも逃げれる体制を、と思ったけれど腕を掴まれてはそれもできない。まして、車に押し込められちゃ、もっと無理。

「警察官が誘拐ですか」
「誘拐だなんて人聞きわるいなあ」
「じゃあ、拉致?」
「うーん。もっと響きが悪くなるね」
「…何でもいいですけど、どこに行くんですか?」
「んー?ナイショ」

萩原さんが人差し指を立てて口元に持ってきて笑う。助手席に座り流れる景色を見る。どこかの駐車場に車が止まって、萩原さんがドアを開けてくれる。お礼を言って車を降り、手を引かれるままに歩く。オシャレなお店の扉を開けて中に入れば店員さんが案内してくれる。案内された先では松田さんがタバコをふかしていた。

「遅えよ」
「いやー、なまえちゃんとのドライブ楽しみたくて遠回りしちゃった」
「おい」
「冗談冗談。道が混んでたんだよ」
「あの、状況が掴めないんですけど…」
「とりあえず座れ、ほら」
「あ、はい」
「え!?なんで松田の隣なの!?」
「お前は迎えに行ったんだからいいだろ」
「俺もなまえちゃんの隣がいい!」

私たちを視界に入れるなり、松田さんはタバコを消した。まだ半分以上残ってたのに、なんだか申し訳ない。私、タバコ嫌いじゃないから別に気にしないんだけど。自分の隣の席を軽く叩いて、私に座るよう促す松田さんに従って座ろうとすれば萩原さんが案の定文句を言い始めた。私の隣に座ったからどうってこともないでしょうに。

松田さんに何とかしろ、みたいな目を向けられて口を開く。後で隣に行くから今は座りましょう、と言えば渋々納得して松田さんの向かいの席に座ってくれた。私も松田さんの隣の席に座って、ずっと聞きたかったことを質問しようと再度口を開いた。

「あの、なんで私ここに連れてこられたんですか?」
「んー?親睦を深めるため、かな?」
「親睦…?」
「萩原がお前と出かけようってうるさかったんだよ」
「松田だっていっつも携帯気にしてたくせに」
「してねえよ。してたとしてもお前よりマシだ」
「一緒だっつーの」
「なんで、私と?」

親睦を深めるために一緒に食事をするのは手段としてはかなり有効だ。でも、私が聞きたいのはそこじゃない。というか食事に誘われた時点で少なからず私に好意を持っている、もしくは私に対して何か聞きたいことがあるのではないかと車の中で予想はしていた。

私が本当に聞きたいのは彼らが選んだ人物がなぜ私だったのか、ということだ。聞きたいことがあるとしても、私は事件に関わった覚えはないし、彼らと私の関係と言えば男に絡まれた女子高生をたまたま助けた警察、というものだ。親がいない、と言った私を問い詰めたい気持ちは分かるが一度助けただけの人にそこまで踏み込んだ質問をするとは考えにくい。

「心配、だったんだよね」
「心配?」
「高校生なのに何もかも諦めたような目してたからさ」
「…そんな目してましたか」
「だから連絡先も渡したんだよ」
「なんか、すみません…」

理由を聞いて驚いた。確かに誰もいなくなって、何で自分がこんな訳の分からない目に合わなければいけないんだと思っていた。男に絡まれてどこかに連れていかれそうになった時も、このまま死んでしまえばこんな苦しい思いをしなくても済むのに、とも考えた。でも、ポーカーフェイスには自信があったし、彼らの前では普通の女子高生を演じてたのにバレていたなんて。

「今日は松田の奢りだからさ!好きなの食べていいよ」
「え、でも…悪いですよ」
「萩原は自分で払えよ。お前は気にしなくていいから、好きなの食え」
「へいへい。そう言うと思ってましたよ」
「あ、あの…」
「ん?どうした?」
「気使わせちゃって、すみません」
「ここはありがとう、って言ってほしいな。なまえちゃん」
「謝られるような事をした覚えはねえしな」
「…あ、ありがとうございます」
「やっぱりなまえちゃん、笑った方が可愛いよ」
「うっ…そ、うですか…?」
「うん。いつもそうやって笑ってなよ」
「前会った時の嘘臭え笑顔よりマシだな」

なぜ、一度会っただけの私に彼らがここまで優しくしてくれるのか。理由は分からなかったけど、こっちの世界に来て独りになった私に初めて与えられた優しさに泣きそうになった。

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