「敬語、やめない?」
「…はい?」

きっかけは萩原さんだった。いつも通り三人でやって来たファミレスでオムライスを食べていた私に萩原さんがそう言った。口にスプーンをくわえたまま間抜けな声を出してしまった私の隣で松田さんがふっ、と笑った。ジト目で見れば悪い悪い、と笑って頭を撫でられる。

「なんですか、突然」
「折角仲良くなったのに敬語だと距離があるじゃん?」
「でも、二人の方が年上だし…」
「えー?俺全然気にしないよ。松田もいいっしょ?」
「みょうじの好きな方でいい」
「まーた、そういうこと言って。ほんとはタメ口で話して欲しいんでしょ?」
「勝手に言ってろ」

ニヤニヤと松田さんに絡む萩原さん。この光景はもう何回も見てる。なんなら、この人達とご飯に行く度に見てる。毎回毎回よく飽きないなあ、と思いながらオムライスを口に運ぶ。デミグラスソースが美味。ここのオムライス美味しい。

「ね?敬語止めよ?」
「…二人がいいならいいですけど」
「全然おっけー!」
「松田さんも?」
「好きにしろ」
「わかった。じゃあ、遠慮なく」

二人のやり取りを見るだけで、口を出さずにオムライスを食べる私に萩原さんが向き直る。そんなにキラキラした目で見られたら何とも断りにくい。萩原さんの無邪気な顔に私は弱いらしく、萩原さんにお願い!と言われて断れた試しがない。なんなら、今日このファミレスに来るのだって断ったけど萩原さんに頼み込まれて渋々来てしまった。

「ついでに名前で呼んでくれてもいいよ?」
「…松田さん、アイスティー頼んでもいい?」
「ああ。デザートはいらねえのか?」
「もうお腹いっぱいだから大丈夫。てか、ほんとに奢ってくれるの?」
「子供が金の心配すんな。黙って奢られてろ」
「…ありがと」
「無視!?無視なの!?」
「萩原うるせえ」
「お店の中は静かにしなきゃダメだよ、研二さん」
「〜っ!はぁ…いつからそんな小悪魔になったの…そんな子に育てた覚えはありません!」
「育てられた覚えはないけど」

両手で頬杖をついてニコニコと笑う萩原さんを見て、返事はせずにそのまま視線を隣の松田さんに移して、松田さんと会話をする。私と松田さんが萩原さんを無視して話してることに拗ねた萩原さんが声を上げる。人差し指を口元に持っていって態とらしく名前を呼んであげれば机に突っ伏した後、ぷんすこ怒りだした。松田さんが隣で心底呆れたような顔をしていて、何となく気持ちがわかった。

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