私の両親の事について聞かないのは彼らの優しさだったのだろう。親が"いなくなった"と、そういった私に違和感がなかったなんてありえない。それでも彼らは深い事は聞かず、ただ"私"と仲良くしてくれた。でも、今まで避け続けてた両親の話をしなければならなくなった。理由は一つ。

「「三者面談?」」
「…学校の書類上は両親がいることになってるんだけど、生憎家にそんな人いないからさ。どっちか親戚のお兄ちゃんって設定にして来て欲しいんだよね」

今日の昼休み。担任に呼び出されて三者面談の話をされた。仕事が忙しくて親が来れないから二者面談にしてくれ、と頼んだのだが担任はどうしても三者面談にしたいらしい。その理由もわかってる。私が学校に馴染もうとしない上に、浮いてしまっている現状を親と共有したいのだろう。

書類上は両親がいることになっているらしいが、果たしてその人は本当に両親なのかも分からない。なんなら、今生きているのか、会ったことがあるのかどうかすら分からない。身近に三者面談に連れていっても怪しまれない上に私とそこそこ関わりが深い人物といえばこの二人しか思いつかなかった。

「それは全然いいんだけど、その…なまえちゃんのご両親は?」
「前にいなくなった、とか何とか言ってたけど、どういう意味なんだ?」

当然の質問だ。でも、その問いに答えるためには私がこの世界で目覚めた所まで遡らなければならない。あんな現実離れした話信じろって方が難しいし、私なら信じない。と、なると最終手段は上手いこと誤魔化すしかない。

「私が高校進学してから、両親が家に帰ってこなくなったの。連絡も取れないし、今どこにいるかも分かんない」
「それ、ホントのことか」
「…本当だよ」
「俺達じゃ頼りないかな?」

私の言葉が嘘だとすぐ気づいた二人に泣きそうになる。理解して欲しいと思う自分と、どうせ話したって信じてくれないと思う自分がいて、口を開けては閉じ、開けては閉じを繰り返す。ここが車の中でよかった。前の座席に座る二人が後部座席に座る私を見る。顔が上げられなくて、膝の上で手を握りしめて俯く。

「しんじて、くれる…?」

ぽつり、と呟いた声は思ったよりも小さくて。

「俺達がお前の話を疑ったことなんてねえだろ」
「全部受け止めてあげるから、話してごらん?」

私の小さな声を拾った二人が笑って車を降りて、後部座席に乗り込んでくる。私の隣に座って、萩原さんが私の頭を撫でながら、松田さんが私の手に自分の手を重ねながらそう言った。この世界で目が覚めた時の事から始まって、ポツリポツリと話す。一度話始めれば止まることなく口は言葉を紡ぐ。

「だからあの時親はいなくなった、って言ったのか」
「…しんじるの?」
「信じて欲しいんじゃなかったの?」
「そ、だけど…こんな、こんな話…」
「確かにお前の話は現実離れしてるが…お前が嘘をつくような奴じゃないからな」
「そうそう、それに目を見れば分かるよ。嘘ついてるか、ついてないかくらいね」
「っ…ばかじゃないの、ふたりとも…っ」

もう、この世界で私の居場所なんてないと思ってた。家族も、友達も、誰も本当の私を知らない。信じてもらえないと分かってて誰かに話す気もなかった。それなのに、なんで、なんでこの2人は私の話を信じるの。こんなに現実離れした話、嘘だって、ありえないって、笑うのが普通じゃないの。

戸惑いと驚愕で声が震える。そんな私に2人がさも当然、と言わんばかりの顔で私に声をかける。優しい声と態度にぽろり、と涙が零れた。一度零れた涙は止まることなく、ぼろぼろ溢れてくる。成人済みの女が、同年代の男の前でこんなにぼろぼろ泣くなんて。でも、今だけ、今だけは二人の優しさに甘えさせて。

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