「授業態度や素行は特に問題ありません。中間テストも学年1位で、成績も言うことなしです。ただ…もう少しクラスに馴染むように頑張ってもらいたいな、と」

余計なお世話だ、と思わず言いそうになったのを抑えて口を噤む。隣で「昔から人見知りが激しくて〜」なんて嘘をついてる萩原さんを横目に早く終わらないかなあ、とため息をついた。

今日は待ちに待った三者面談の日。朝から学校に行くのが憂鬱でしょうがなかったけれど、萩原さんが来てくれることになってる以上私がサボる訳にはいかないわけで。しょうがなく、担任と向かい合って座っているという訳だ。

「なまえちゃんがやりたいことをやらせてあげたいので、俺はこの子の意思を尊重します。学校内で孤立していることをなまえちゃんが悩んでいるのなら手を貸しますが、そうじゃないのならそれがこの子の意思だと思うので、俺からは何も言いません」

私が学校内で浮いてるのを何とか身内から説得させようと思っていたらしい担任は萩原さんの言葉を聞いて「そう、ですか…」と露骨に落ち込んでいた。ほんとに担任がこの女でよかった。ここで引き下がらずにでも、とか言うような奴だったらその時点で私は帰る。

萩原さんは私の頭を撫でながら真剣な顔でそう言い切った。言葉をなくした担任に「もういいですよね。私、もう帰ります。行こ、お兄ちゃん」と言い捨てて萩原さんの手を引いて教室を出る。後ろで引き止めるような声がしたけれど知らないふり。

「何か俺、まずいこと言っちゃった?」
「ううん。むしろありがとうって感じ」
「ならいいんだけど」
「ほんと、ありがとね。さっきの嬉しかった」
「いーえ、どういたしまして。それに、俺の方こそありがとう」
「何が?」

私に手を引かれながら萩原さんが不安げに口を開く。まずいことなんて一つもない。むしろ、純粋に嬉しかった。萩原さんに向き直ってお礼を言えば、案の定頭を撫でられる。真剣な萩原さんを見るのは初めてだったけどすごくかっこよかった、なんて思ってると真面目な顔の萩原さんからお礼を言われる。何かお礼を言われるようなことをした覚えはないんだけど。

「さっきのお兄ちゃん呼び、すごいよかった。ありがとう」
「……さーて、帰ろっと」
「ちょ、無視!?」

前言撤回。やっぱり萩原さんはいつでもどこでも萩原さんだった。

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