彼の頬の絆創膏が外れれた日、帰り際私に向かって「お陰で綺麗に治ってくれましたよ」なんて微笑んだ彼に「よ、かったです…」と当たり障りない返事をしてしまった。もっと可愛げのある返事ができないのかお前は、と自分自身にツッコミを入れてポアロを出る。

「…覚えてたんだ、」

ぽろっと口から零れた言葉を噛み締めて緩む頬を手で押さえる。確かにポアロにはよく行っているし常連と言えば常連なのかもしれないけど、彼に積極的に話しかけている女子高生の子達に比べたら大分影が薄い方だと思っていたのに。まさか、ちゃんと顔を覚えていてくれたなんて恥ずかしさと嬉しさでどうにかなってしまいそうだ。

最近いい事ありすぎじゃないか、と心を弾ませながら歩く。そんな時、ふと目に入ったのは本屋さんの入口に掲げられた【新作入荷】の文字。そう言えば自分が気に入って読んでいる推理小説の新刊も今月発売だったっけ、と思い本屋に足を踏み入れる。目当ての本を見つけ手に取ろうとした時、隣にあった本に何となく興味を引かれて手に取る。冒頭を少し読んでみようかと、立ち読みを始めたのがそもそもの間違いだった。

「…やば、今何時!?」

ふと気づくと周りに人はいなくなっていて、窓から見える空は真っ暗になっていた。慌てて腕時計を見れば時間は夜の7時半。少し立ち読みをするつもりだったのにガッツリ読み込んでしまっていたようだ。慌てて目当ての本とさっきまで読んでいた本を手に取り会計を済ませる。家までの道のりは街灯が少なく、薄暗い為明るいうちに帰りたかったのだが今回ばかりは私が悪い。


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