「全然変わんないなあ…ここも」
風で帽子が飛ばないように手で押さえる。目の前には『Bar HOMRA』の文字が掲げられたオシャレな建物。何を隠そう私の彼氏様が経営しているバーだ。中からガヤガヤと声が聞こえて、いつからここは悪ガキたちのたまり場になったんだ?と首を傾げる。
「ま、いっか」
かけていたサングラスを外して、胸元に引っかける。扉を開けて中に入った瞬間、さっきまで響いていた声がピタリと止む。同時に鋭い視線が向けられる。ここまでは予想していたけれど、ここにいるということは出雲さんと交流があるってこと。それに見るからに年下の彼らに私が遠慮をする理由なんて一つもない。
「あれ、出雲さんいないじゃん」
「お、おい!だ、誰だてめえ!」
「ね、出雲さんは?」
「く、草薙さんなら買い出し…ってそうじゃねえ!」
「買い出しかあ…タイミング悪いなあ。しょうがない、待ってよーっと」
ニット帽を被った少年が少し頬を赤くしつつも、私に威嚇してくる。うんうん、可愛いなあ。全然怖くもなんともないので、他のメンバーからの視線も全部含めてスルーしてカウンター席に座る。
スマホを開いてみるけど、特にすることもなくどうしたものかと頬杖をついて目を閉じる。最後にあったのはいつだったっけ。もし他に女出来てたら、と想像してふふっと笑みが零れる。
「ただいまー」
「と、十束さん!」
カランカランとドアベルの音がして、懐かしい声が聞こえる。さっきの少年が焦ったように入ってきた男の名前を呼ぶ。そちらに視線を向けて、その男の顔を見てすぐに分かった。
「多々良…?」
「え?…えっ、名前!?」
「やっぱり多々良だ!久しぶり!」
「わ、あ!」
私はすぐに誰だか分かったのに、多々良は私が分からなかったようで。私の顔をまじまじと見た後、驚いたように目を丸くして私の名前を半ば叫ぶように呼んだ。
椅子から飛び降りて多々良に駆け寄り首に腕を回して抱きつく。驚きつつも受け止めてくれた多々良を真正面から見つめる。背後から戸惑いや疑惑の声と視線が飛んでくるけれどお構い無しだ。
「いつ帰ってきたの?」
「二時間前かな」
「もー、連絡してくれたら迎えに行ったのに!」
「ビックリさせようと思って!」
さっきまで座ってた場所に腰掛ける私の隣に座って話をする。久しぶりだけど、会話は途切れることなく進む。少ししてカランカランとまたドアベルが鳴る。
多々良と一緒に視線を向ければそこに立っていたのは大好きな彼の姿。すぐに彼だって分かるのに、最後に会った時よりもずっと大人っぽく、かっこよくなっててそわそわする。
「店番、おおきに。…ん?なんや、八田ちゃんどしたん?」
「いや、あの、女が…」
「女?」
さっきの少年と会話をする出雲さんを見て惚けていると隣の多々良に腕をつつかれる。慌てて多々良を見れば出雲さんを指さして悪戯っ子のように笑う。
椅子から降りて出雲さんの名前を呼べば、彼の視線がこちらに向く。私を目に移した瞬間、目を丸くして持っていた荷物が手から滑り落ちて音を立てる。
「名前…?」
「うん」
「っ、連絡くらいしいや…!」
「おかえりって、言ってくれないの?」
「おかえり、名前」
「〜っ!ただいま!」
泣きそうにくしゃりと笑う出雲さんに抱きつけば、ぎゅっと抱きしめられる。ぎゅうぎゅうと私がいることを確かめるように抱きしめる出雲さんに負けじと抱きつく。
体を離して私と目を合わせた出雲さんが、スッと目を細める。ああ、キスする時の顔、変わってないんだなと思いながらゆっくり目を閉じる。周りに人がいるのも全然気にせず久しぶりの出雲さんとのキスに溺れた。
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