「ここ、どこ…?」

冷たい風が頬を撫でて、肌寒さに目を覚ます。自分の部屋のベッドで寝ていたはずなのに、今私が横になっているのは見覚えのない洋風の部屋のベッド。窓から見える月は青白く光っていて、部屋の中をうっすらと照らしている。ベッドから降りて窓の外を恐る恐る覗こうとした瞬間扉がドンッ!と大きな音を立てた。

「ひっ…!」

驚きで肩が跳ねて、声にならない声が出る。ガチャガチャと動くドアノブと、何度も叩かれる扉に腰が抜けて座り込む。思うように動いてくれない手足を必死に動かして扉から離れようと後ずさる。背中に壁が当たって、それ以上後ろに下がることが出来なくなる。耳を塞いで目を瞑る。

しばらくして音が止み、再度静けさが訪れる。カタカタと震える体のせいで立ち上がることは疎か、その場から移動することも出来ない。ぎゅっと手を握りしめて、深呼吸をする。大丈夫、大丈夫。怖くなんかない、大丈夫だから。

カチャリ

突然、小さな音が部屋中に響き渡る。音の出処は私の真正面にあるサァーっと血の気が引いていく感覚が私を襲って、落ち着いてきていた体の震えも元通り。回るドアノブも開く扉も全てがスローモーションに見える。恐怖による涙で視界がぼやける。やだ、やだ。だれか、たすけて。

「み、やじ…」
「なんでお前がここに…つーか、何泣いてんだよ」
「だ、だって…だって、死ぬかと思ったぁ…」

扉を開けて入ってきたのは同じクラスの宮地清志。彼の顔を見た瞬間、安心して涙がボロボロ零れる。宮地がしゃくりあげながら泣く私の隣にしゃがみ込んで背中をさすってくれる。知っている人が来てくれたことに安心はしたが、恐怖が消えたわけじゃない。未だに手は震えているし、腰が抜けて足に力が入らない。

「立てるか?」
「う、ん…」

差し出された手に捕まって足に力を入れる。立つことは出来たけど、震える私の足に目を落とした宮地が小さくため息をついて私に背中を向けてしゃがみ込む。まさか、と思って宮地の名前を呼べば早くしろ、と返される。確かに今の私の状態じゃ歩けないけれど、だからって同級生におんぶされるなんて恥ずかしいなんてレベルじゃない。

「担がれるのとどっちがいい?」
「…おんぶでお願いします」
「ったく、初めから黙って背負われてりゃいいんだよ」
「うっ…重いよ…?大丈夫?」
「お前1人背負って潰れるほどヤワじゃねえよ」
「そこは重くないよって言って欲しかった」
「あ?人1人背負って軽いわけねえだろ」

恐る恐る宮地の背中に乗ればふわりと体が浮く。いつもより高くなった視線に少し感動しつつも、不安定に揺れるのが怖くて宮地の肩に置いてた手を首に回す。嘘でも軽いなんて言ってくれない宮地の背中に軽く頭突きをして温かさに目を閉じた。



ALICE+