まさか、完全に別件で動いてる彼がこんな所に潜入しているなんて思ってなかった。お互い潜入を主にしている以上、ポーカーフェイスは身に付いている。見知った顔に出会ったくらいで目に見えて動揺したりはしない。それなのに、私の隣に座るこの少年は何なのか。

「お姉さん、安室さんの知り合いなの?」
「どうして?」
「お姉さんが店に入ってきた時、安室さんと目が合って一瞬驚いた顔したでしょ?安室さんもお姉さんを見て驚いた顔してたから知り合いなのかなって!」
「残念ながら初めましてよ。随分かっこいい人がいるな、ってびっくりしちゃったの」

見た感じ小学生くらいなのにこの洞察力と観察力、只者じゃないなと感じて本気の演技で対応する。小学生を相手にしているとは思えない圧迫感にぞわりと鳥肌が立つのと同時に唇がニヤリと弧を描きそうになる。不満げな顔でふぅん…と呟く目の前の少年にうっすら感じる恐怖とぴりぴりとした刺激。

「お姉さんは何のお仕事をしてるの?」
「あら、急にどうしたの?」
「だって休日のお昼時にスーツでここにいるってことは休日も仕事をしなきゃいけない職業ってことでしょ?」
「ふふ、じゃあ小さな探偵さんにヒント。見る人によっては善にも悪にもなるものを作ってる人よ」

諦めたかのように見えた少年だったが、諦めていなかったようで再度私に視線を向ける。まるで私の事を探っているかのような口ぶりに笑みが零れた。簡単に情報を与えるほど優しくないのよ、と心の中で呟いてから態とらしくヒントを与える。私のヒントに眉を顰める少年は顎に手を当てて何かを考え始める。

「僕、子供だからわかんなぁ〜い!お姉さん、答え教えて?」
「あら、ギブアップ?小さな探偵さん?」
「大人気ないですね」
「ふふ、だって可愛いんですもの」

きゅるるん、という効果音がつきそうな顔で私に答えをせがむ少年にクスクス笑いかければ今までのやり取りを見ていた彼から声が飛ぶ。あくまで私とこの人は初対面、当たり障りない返事をしつつ彼と会話をすれば少年の目がキラリと光る。

「お姉さんと安室さん、初めて会うのに仲良しだね」
「ふふ、ボウヤには分からない大人のお付き合いってものもあるのよ」

疑り深いのか、私をじっと見つめる少年の頭を撫でながらふわりと微笑む。時計を見れば取引相手との約束の時間まで20分前になっていた。ここから約束の場所までは10分。そろそろ出ておいた方がいいだろうと席を立つ。

「次会う時までに考えててね、小さな探偵さん」

小さな頭をポンポンと撫でて、会計を済ませて店を出る。あの歳であれほどの洞察力と観察力。将来的にはウチに欲しいなと思いながら歩く。まさかこの後、何度も遭遇してその度に探られることになるなんて想像してなかったのだけど。


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