トリップしてきて何もかもを失った子が偶然スコッチを助けてしまう話

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星が、月が、嫌いだった。

真っ暗な夜空を照らす光が憎らしかった。何もかもを失った私を嘲笑うように輝く光が憎らしかった。

嫌いだ。星なんて、月なんて、嫌いだ。そう思うのに、まるで何かを願うように毎日、毎日眺めた。星を、月を、いつも眺めた。

「…バカみたい」

手を伸ばして、引っ込めて。もう一度伸ばして、引っ込めて。届くはずのないものに手を伸ばして、叶うはずのないものを願ってる。こっちの世界に来てから何度、自分を嘲笑しただろうか。

そろそろ、ここから出よう。気まぐれで登った廃ビルの屋上。誰も目をつけないようなボロボロの廃ビル。まるで、誰にも見つけてもらえない私みたいだ、と。

くるりと踵を返そうとした時、バタバタと足音が聞こえた。隠れる間もなく大きな音を立てて扉が開き、男の人二人が入ってくる。何が起きたかさっぱり理解できない。

理解しようとしている間にどんどん話が進む。彼らに私の姿は見えていないのだろうか。ぼんやりと彼らのやり取りを眺めていると、ふわり一人の男が宙を舞う。

次の瞬間にはその男の手に見慣れない黒い塊が握られていた。拳銃だ、と気づくのに少々の時間を要した。異質ではあるものの一般人ではある為、見慣れないソレを理解するのに時間がかかるのは当然だろう。

「お前を撃つ為じゃない…こうする為だ!」

拳銃を構えていた男が自分の胸に銃口を当てる。目の前で人が死ぬ瞬間を拝むことになるのか、と恐怖で息を呑む。ひゅっ、と喉から音が漏れる。一歩足を後ろに引くと、ざっ、と音が鳴った。

「誰だ!」

二人の男がバッ、とこちらを見る。私の姿を捉えた瞳が驚きに揺れる。見つめあったまま沈黙が続く。どうしたらいいのか、さっぱり分からない。逃げたら撃たれるだろうし、話しかけるのはもっとおかしい。

頭を悩ませていれば、カンカンと非常階段をかけ登る音がして、すぐに扉が大きな音を立てて開いた。もう一人、男が入ってきて私には目もくれずに既にいた男たちの元へと駆け寄る。

まさか、この瞬間に私が一人の男の命を救っていたなんて想像すらしていなかった。しかもこの後、色んな厄介事に巻き込まれるなんてもっと考えていなかった。


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