キスしなきゃ出られない部屋

【花宮真】

目が覚めたら扉があるだけで他には何も無い真っ白な部屋にいた。そして、隣には何故か我らが主将。扉には「キスしなきゃ出れない部屋」と乱雑な字で書かれていて、二人で顔を見合わせる。

「なんだこのふざけた部屋」
「ドア開かないの?」
「…チッ、開かねぇ」
「ええ…花宮とキスするの…?」
「こっちの台詞だブス」

ガチャガチャと乱暴に扉を開けようとする花宮の背中に不満の声を漏らせば人ひとり殺せそうな形相で花宮が振り返る。やだ、怖い。

「…おいブス、手出せ」
「は?なんで?」
「いいからさっさとしろ」

不機嫌そうな顔で差し出された右手に自分の右手を重ねる。なにをしようとしてるのかさっぱり分からないけれど花宮が行動を起こすってことはそれなりに何かあるんだろう。

「…チッ」
「ねえ、何する………は?」
「さっさと出るぞ」
「え、ちょ、は?」

私の右手を親の敵を見るような目で見て舌打ちをする花宮を問いただそうと口を開いたけれど、紡ごうとした言葉は途中で止まらざるを得なかった。

私の右手を自分の口元に持っていったかと思ったら流れるようにその指先に唇を落とす。少し伏せられた目と添えられただけの右手に他意はないと分かっていてもほんの少し恥ずかしくなった。

指先へのキス→賞賛

〜〜〜

【瀬戸健太郎】

目が覚めたら扉があるだけで他には何も無い真っ白な部屋にいた。扉は押しても引いてもびくともしない上に、「キスしなきゃ出れない部屋」という文字が乱雑に書かれていた。

すぐ横で呑気に寝ている奴を起こせばちらりと辺りを見回して扉の文字を見て一瞬で状況を理解したようだった。さすが、IQ160は伊達じゃない。

「どうする?」
「どうするって、決まってるでしょ」
「え、なに?どうするの?」
「手出して」
「あ、うん…」

座り込む瀬戸の隣にしゃがみ込んで言われた通りに手を出す。瀬戸がその手を掴んでゆっくりと自分の口元に近づける。手の甲に瀬戸の唇が一瞬触れて、離れる。

「ん、これでいいんでしょ」
「あ、えっと、その…いいん、だけ、ど…」
「なに?」
「いや…なんでもない、デス」

流れるように行われたその行動に戸惑う私を不思議そうな目で見る瀬戸は正直めちゃめちゃかっこよかった。様になってた。

気使えるし優しいしどっかの眉毛主将より10倍は瀬戸の方が気に入ってるというのも合わさって破壊力は抜群だ。

そのまま手を引かれて立ち上がり、真っ直ぐに扉に向かう。さっきまでびくともしなかった扉があっさりと開いた。

手の甲へのキス→敬愛

〜〜〜

【古橋康次郎】

目が覚めたら扉があるだけで他には何も無い真っ白な部屋にいた。古橋が蹴りを入れるが扉はびくともしない。

「本当にキスしないと開かないのか」
「みたいだね」
「いいのか?」
「何が?」
「キスしても」
「だって口に、とは言われてないし?」
「なるほどな」

扉を見たあとに私を見る古橋はいつもより少し不安げな顔をしていて思わずふっ、と笑ってしまった。

私の返事に驚いたように目を丸くした古橋はどうやらキス=口に、という方程式を成り立たせていたらしい。

ふむ、と少し考えるような素振りをした後、古橋は私の右手を取って自分の顔をそこに近づけた。

「…っ、なに、その目」
「何のことだ?」
「ムカつく」
「あぁ、出られるようだぞ」
「ムカつく!」

唇が落とされたのは私の手のひら。唇を落とす直前に向けられた視線にドキリと胸が高鳴った。ぶわりと顔が赤くなったのが分かって、古橋の腕を叩く。

素知らぬ顔で扉に手をかける古橋の背中にもう一度攻撃をして、その背中を追いかけた。

手のひらへのキス→懇願

〜〜〜

【原一哉】

目が覚めたら扉があるだけで他には何も無い真っ白な部屋にいた。うわ、これネットでみたことあるわ〜なんて言って隣でケラケラ笑う原に覚めた視線を送って扉に手をかける。

どう頑張っても開かない扉にため息をついて原を見ればニヤニヤと笑う口元が目に入る。こんな状況でも楽しんでいられるなんてどんな神経してるんだか。

「キスだって、葉月」
「そうだね。何でそんな楽しそうなのよ」
「え〜?どこにキスしよっかなって」
「気持ち悪い」
「冗談だって」

私の肩に腕を回してニヤニヤと笑い続ける原の手を叩き落とせば、いつものようにケラケラ笑い始めた。

「でもま、ほんとにキスしなきゃ出れないんならするしかないよね」
「そうなんだけど…ってな、に…」
「ほい、これで開いたでしょ」
「…え、あ、うん…うん?」

頭の後ろで腕を組みながら私の前まで歩いてきた原がおもむろに私の髪に触れる。何がしたいんだと思っていると、不意に原の顔が近づいてきた。

突然近づいてきた原の顔に目を閉じることもできなければ押しのけることも出来ずそのまま私の髪の毛にゆっくりと唇が落とされる。

何事も無かったかのように扉に向かって歩き始めた原をすぐに追いかけることができずにその場に立ち尽くす。

ゆっくりと原の方を見れば向こうもこちらを向いていて。行かないの?と首を傾げたことで髪が揺れて一瞬だけ、目が合った。

髪へのキス→思慕

〜〜〜

【山崎弘】

目が覚めたら扉があるだけで他には何も無い真っ白な部屋にいた。扉に記された、この部屋から出るための唯一の手がかりを見てザキが声を荒らげた。

「うるさいなあ」
「なんでそんな落ち着いてんだよ!」
「ザキこそキスくらいでそんな顔真っ赤にしてるからいつまで経っても童貞なんだよ」
「今それ関係ねえだろ!!!」

顔を真っ赤にして怒鳴るザキは大方、キス=口、という方程式を成り立たせている上に、私にそんなことをするのは恥ずかしいという二つの意味で赤面しているのだろう。

「別に口にとは言われてないんだからそんなに恥ずかしがることないのに…」
「そ、それもそう、だよな…」
「私からしてもいいよ?」
「お、女にんなことさせられっかよ!」
「ほんっと…こういう時は男前なのになあ…」

私の冷静な言葉に少し落ち着きを取り戻したのか頬をかくザキの前に立って、ふざけて見せれば更に顔を赤くしてそっぽを向かれてしまった。

こういう男気はあるのに、恋愛に関してはとことんヘタレだからモテないんだよ、と思っていると何かを決めたような顔でザキがこっちを見る。

「ザキ?」
「う、動くなよ」
「?う、うん…!?」
「こ、これでいいんだろ!おら!さっさと行くぞ!」

私の肩に手を置いて真剣な目でこっちを見るザキ。どうせ直前でやっぱ無理とか何とか言うんだろ、と思いながらザキに言われた通り動かずに静かにする。

ゆっくりと顔が近づいてきて私の額に、ザキの唇が、触れる。驚きで言葉を失う私からバッと離れて扉に向かうザキの耳は真っ赤になっていて。

その背中を追いかけて、一発食らわせる。いってえ!と騒ぐザキを無視して部屋を出る。不覚にも、一瞬、ほんとに一瞬だけだけど、ザキにときめいてしまったことがムカついた。

額へのキス→友情

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