結果見るか見ないか、だ

※やっぱり倫理観とか色んなものが欠けてる。『互いに譲らぬ堕とし合い』の続きみたいなやつ。前回を読んでなくても読めます。

「で?花宮と朝までヤッてたの?」
「いやマジでさ、アイツどうなってんの?」
「普通に気に入られてんだろ、それは」

今日も今日とて行われている原とザキとの宅飲みは周りを気にせずにぺらぺらと話が出来る。外で飲むとなると多少会話の内容には気を使わないといけないが、宅飲みとなれば話は別だ。

先日の花宮によって引き起こされた拉致事件の話をすれば当然二人は食い付いてくる。ゲラゲラと笑いながらああでもないこうでもないと話している内容は何も知らない人が聞くにしては酷すぎる。本気で宅飲みで良かったと思ったのは何度目か分からない。

「正直あの拉致の仕方は手馴れてる奴の犯行だわ」
「普段から職場の女拉致ってんだろ」
「花宮の評価クソすぎじゃん」
「言うても想像出来るけどな」
「分かる。あの手この手で上手く拉致ってそう」
「犯罪させたら右に出るものはいないってか?」
「うは、それ最高」

話が盛り上がれば酒も進む。酒が進めば酔いが回って話も盛り上がる。花宮に拉致られてからベッドに投げられて、覚えたてのサルのようにキスを貪って体を重ねて早朝に目が覚めるまでを時系列で一通り話して何本目かの缶ビールに手をかける。

そろそろ日本酒かな、なんて思いながら枝豆に手を伸ばせば、同じく枝豆に手を伸ばした原の手がぶつかる。ごめん、と軽く謝罪をして一度引っ込めようとした手はするりと原の指に絡め取られた。

「は?」
「ね、花宮と朝までヤれるんなら俺ともシよーよ」
「調子乗んな」
「いやいや冗談じゃなくてマジだから」
「はあ…?え、もう酔ってんの?」
「だぁから酔ってねぇっつの」

握った手をそのまま口元に寄せて口付けを落とした原に正直な所、鳥肌が立った。なんだコイツ。キモイな。眉間に皺を寄せて露骨に嫌そうな顔をすれば、原の声のトーンは明らかに不機嫌になる。いや不機嫌なのはこっちだわ。気色悪いことすんなよ。半ば無理やり原の手を振り払って机の上のおしぼりで手を拭く。

「つまんねーの。ちょっとは靡けよ」
「いや無理だろ。今のでいける訳ねぇじゃん」
「は?んじゃ何?ザキならその気にできんの?」
「いやそういう話じゃねーだろ」
「ほんとだよ。マジで下半身直結バカじゃねーか」

つまんねー、とぶうぶう唇を尖らせながら私のビールを横から掻っ攫っていった原を机の下で足蹴にしてキッチンへ向かう。勝手知ったる様子でザキの家の食器棚からグラスを取り出して冷蔵庫の横に並べられている日本酒を選ぶ為にしゃがみ込む。

「どれにすんの?」
「悩む」
「前回これだったろ」
「それ甘いんだよ。今日の気分は激辛」
「お前大体いつも激辛じゃん」
「ソンナコトナイヨ」
「はいダウト。吐くならもっとマシな嘘吐けよな」
「え〜〜ウザ〜〜」

しゃがみ込む私を上から覗き込んできたザキとだらだら会話をしながら日本酒の瓶を手に取って立ち上がる。自分の分のグラスと水の入ったグラスを持ったザキと並んで部屋に戻れば、原はベッドに寝転がってスマホを弄っていた。お前もう酒飽きたのかよ。

「飲まねーの?」
「んーオレンジジュースの気分」
「ねーわ勝手に買ってこい」
「ザキお小遣い〜」
「やんねーよ?」
「買い物行くならついでにカルパス買ってきて」
「は?またかよ。いい加減デブんじゃね」
「殺すぞ」

ひょいっと起き上がるなり私とザキに凭れかかって甘えた声を出す原はマジで、死ぬほどウザい。何やかんやと言いながら財布とスマホを持ってぺたぺたと部屋を出ていった原を見送ってグラスに日本酒を注ぐ。一口飲めば喉の奥がかっと熱くなって、鼻から抜ける日本酒特有の香りにふう、と息を吐く。

「これ美味くね?」
「わかる美味い」
「買って正解だわ。製造どこ?」
「この間美味いって言ってたのと同じじゃね?」
「うわ、私ここ推すわ」
「推し多すぎでウケる」

酒を飲んだだけで何が楽しいんだと言う程に笑っているザキを横目に残り一個になってしまったカルパスを咥える。ぼうっとしながら咀嚼していれば一升瓶を移動させる手間を省く為に隣に座っていたザキがじぃっと見つめてくる視線を感じて何?と首を傾げる。

「…原じゃねぇけどよ、お前やっぱキレーな顔してるよな」
「はぁ?」
「なんか、たかが性欲処理でお前ってのは勿体ない気するわ」
「…酔ってんの?」
「いんや?別に」

手の甲でそっと私の頬に触れて、ふっと表情を緩めたザキに思わずぽかんと間抜けな顔をしてしまう。どうせお前とヤるならちゃんと誘うわ、とゲラゲラ笑うザキにあっそう、と返して酒を飲むがイマイチ飲み込みきれない上に酒の味も分からない。なんてことをしてくれたんだと眉間に皺を寄せれば、その顔を見てザキがまた声を上げて笑う。

「何で動揺してんだよ」
「いや動揺っていうか…一緒に風呂まで入ってんのに今更アンタに女として見られてるとは思ってなかったっていうか…」
「いや別に女として見てねーわけじゃねぇよ。見なくても平気ってだけだ」
「…へぇ、そう…」
「なんだよ、意識してくれんの?原が帰ってくるまでに一回くらいならできんじゃね?」
「どうせヤるならちゃんと誘うんじゃなかったのかよ。出直してこい」
「ウケる。冗談だっつーの」

お前もそんな顔出来んだな、と笑ったザキに舌打ちをしてグラスを傾ける。ウッザイ。こんなの飲まなきゃやってらんないわよ。空になったグラスに酒を注ぎ、また一気に飲み干す。

それを何度か繰り返せば酒が回りぐらぐらと頭が揺れる感覚と激しい眠気。バカじゃねぇの、と私に水を飲ませるザキの焦った顔を最後にぷつりと意識が途切れて、私は人生の中で片手で数える程しかない二日酔いになった。

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