互いに譲らぬ堕とし合い

※やっぱり倫理観とか色んなものが欠けてる。付き合ってるわけじゃないけど花とマネがやることやってる。

ぐるりと回った視界にぱちりと目を瞬かせれば、目の前の花宮がにこりと人好きのしそうな笑み……では無く悪人さながらの歪んだ笑みを浮かべた。その表情に堪らず舌を打って眉間に皺を寄せる。

「離せ」
「あ?ここまで来ておいてそれかよ」
「私の意思で来た訳じゃないんですけど?」

職場を出るなり車に乗せられて反論する間もないままホテルに連れてこられた挙句、部屋に入るなりベッドに放り投げられたのに私が望んで来たような口ぶりに納得出来るはずもない。

やたらと機嫌の良い花宮に不気味さを感じながらもなんの用だと問えば、花宮は益々笑みを深くした。その笑みにぞわりと嫌な予感がして逃げようとした私を花宮の腕が捕らえる。

「おいおい、逃げんなよ」
「逃げるに決まってッ、ん…ぅ、」

跡が残りそうな程キツく握られた手首がびりびりと痛む。反論しようと開いた口は花宮の薄い唇に塞がれて呼吸すらままならない。飲み込みきれないほどに唾液を注がれて、花宮の舌が口内を蹂躙する。

頭の奥に響く水音が意識を歪ませていく感覚に抗うように口内の舌に歯を立てれば、びくりと体を揺らした花宮がゆっくりと距離を取った。いつもなら怖い顔で睨んでくるだろうに、私を見下ろした花宮はにっこりと微笑む。これはシャレにならない。マズい。

「花宮、アンタねぇ…」
「はは、いってェな。キスされてる時くらい大人しくしとけよ」

ふはっ、と笑った花宮に何を言っても無駄だと察した私は早々に抵抗するのを止めた。とは言えやられっぱなしは癪だ。再び噛み付くように重なった唇を受け入れて、口内を動き回る舌に自ら舌を絡める。

鼻から抜けるような甘い吐息を零し、花宮の足を自らの足で撫でる。花宮の呼吸を、唾液を奪うように深く口付けをすれば、花宮の眉間に皺が寄る。ああ、その顔。余裕のないその顔が見たかったのよ。

「ん、ふっ…ぁ、は…ッ、」
「余裕そうな顔してんじゃねぇぞ」
「あは、どっちがよ。こんなにしちゃって、もう我慢できないんじゃない?」
「あ?テメェこそこんだけ濡らしといてどの口が言ってんだよ」

私も花宮も自分が白旗を上げる気なんてさらさら無い。決定的な行為に及ぶことはなく、ただひたすらに口付けを交わして焦らすように触れる。相手の感度を高める行為だけを繰り返し、互いに息が荒くなる。口元はどちらのものか分からない唾液でべたべたになり、下着は最早意味を成していない。それでも自分から求めることはしたくなかった。

ろくに抵抗もせずに花宮にホテルに連れ込まれて、挙句自分から抱いてくれと求めたなんて恥でしか無い。対してコイツは初めから私を抱くつもりでここに来ているんだ。だったらコイツに求められて仕方なく受けたことにする方が優位に立てる。それに何より私を求める花宮が見たい。原達に自慢したい。飲み会の肴にしたい。

「このままキスだけでイッちゃうようなクソ雑魚になりたいんだ?花宮ってドMなの?」
「あ?ンな訳ねぇだ」
「ふうん…あっそ。んじゃ、イッちゃえ」
「ぅ゛ぁ゛…ッ、クッソ…てめ、ふざけんなよ…!」

ぺろりと舌なめずりをして足で花宮のアソコを刺激する。ぐっと力を込めれば花宮の顔が露骨に歪んで、花宮が舌を打つ。残念ながら絶頂とまでは行かなかったようで、花宮は荒い呼吸を数度繰り返してからベッドサイドへ手を伸ばす。避妊具を乱暴に口で開けて、手早く身に付けた花宮は苛立ちを隠そうともせずに私の唇に噛み付いた。

「我慢の出来ないワンちゃんでちゅねぇ」
「テメェ、マジで覚悟しとけよ」
「やれるモンならやってみろよ…ッ、ぅあ…っ、」
「ふはっ、だらしねぇ顔だな」
「あっ、は…っ、どっちが…っん、」

体の奥を暴こうと突き上げてくる熱が、快楽が、体を支配する。欲に塗れた醜い男と女の姿に、所詮我々も人でしか無いのだと自嘲めいた笑みが零れる。意識を飛ばすまで求め合った私と花宮のどちらが先に堕ちたのかは、誰も知らない。

ALICE+