『どうして何にも言わないの』で『エロティック』なワンシーン
〜〜〜
まさか、と思った。信じたくなかった。
「綴さん、別れよう」
「は…?な、なんで…」
綴さんが他の女の子と仲良さげに歩いてるところなんて見たくなかった。目を逸らしたいのに逸らせなくて、私が見ている目の前でジュエリーショップに入っていった二人を見て頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
ぐらり、頭が揺れて何も考えられなくて。気づいたら自分の部屋にいて、どうやって帰ってきたのか全く分からなかった。ただ、はっきりと目に焼き付いているのは綴さんが女の子と歩いてる場面。
私じゃ、あの女の子にはなれない。顔が小さくて、身長が高くて、スタイルが良くて。私なんかじゃ到底適わない。辛くなる前に離れよう。きっと、綴さんも私から別れを切り出すのを待ってる。
そう思って、伝えたのに。どうして、なんで、そんなに泣きそうな顔するの。泣きたいのは私の方なのに。なんで、なんで、そんな不安に揺れた目をするの。綴さんの口が一度開いて、閉じる。まるで言葉を探すかのような素振りにじわり、私の視界が滲む。
「私じゃ、あの子になれない。綴さんを幸せにできない」
「何言って…」
「あの時、見てたんだ。綴さんが女の人とジュエリーショップに入っていくところ」
「っ…」
私の言葉に驚いたように目を丸くした後、苦虫を噛み潰したような表情をする綴さんを見て、じくりと胸が痛む。
綴さんなら、浮気じゃないよって。否定してくれるって心のどこかで信じてたのに。目の前の綴さんは困ったように言葉を探してる。
ねえ、何で黙ってるの?否定してくれないの?ほんとに、浮気してたの?私何かした?ぐるぐると疑問ばかりが頭をよぎって、頭が、ぐらぐらする。
「どうして、何も言ってくれないの」
ぽろり、私の目から涙が零れ落ちる。その瞬間、綴さんの表情も悲しげに歪んだ。ぐっと引き寄せられて抱きしめられる。離して、と言った声は綴さんの声でかき消された。
「ごめん」
「な、んで謝るの」
「不安にさせて、ごめん」
「ほんとに、浮気したの」
「アイツは友達。プレゼント選びに付き合ってもらってただけ」
「ぷれ、ぜんと?」
ぎゅっと抱きしめられて、絞り出すような声で謝られる。ゆっくり体を離した綴さんが私の頬を伝う涙を親指で拭う。ちょっと待ってて、と頭を撫でられ綴さんがカバンから何かを出して戻ってくる。
「ほんとは、ちゃんとした日に渡したかったんだけど…これ」
「こ、れ…なん、っで…」
「恋人にプレゼント渡すのに理由はいらないだろ?」
「っ…ば、か。つ、づるさんのばか!」
「泣かせてごめん。不安にさせてごめん」
差し出されたのは綺麗なピンクゴールドのネックレス。ボロボロと涙を流して泣く私に綴さんがネックレスを付けてくれる。ぎゅっと抱きつけば、ぽんぽんと優しく背中を撫でられる。
「なまえ、顔上げて」
「や、だ。今、すごい顔してるから」
「キス、したい」
「っ…!も、っとやだ、!」
「ほんとに?」
「〜っ!い、じわる」
「はは、知ってる」
涙も引いてきて、少し落ち着いてきた頃合を見計らって綴さんが私の名前を呼ぶ。いつもよりもずっと優しくて甘い声に、最初こそ拒んでいたけれど完璧に拒むことなんか出来なくて。
恐る恐る顔を上げると、額、瞼、鼻、頬と順に口付けられる。優しく背中を撫でていてくれた手は気付けば腰と後頭部に回っていて、ゆっくりと唇と唇が触れる。
ちゅ、ちゅ、と触れては離れを繰り返すキスが徐々に離れなくなる。どんどん深いキスに変わって、頭がくらくらして、足が震える。ふわり、抱き上げられてゆっくりとベッドに下ろされる。
「つ、づるさ…」
「もう別れるなんて、言うなよ」
「…うん。ごめん、なさい」
私の返事に嬉しそうに笑った綴さんがまた、私の口を塞ぐ。しゃらり。私の首元で、ピンクゴールドのネックレスが小さく音を立てた。
『どうして何も言わないの』
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