※全体的に暗い※

〜〜〜

なまえが事故に遭ったと、万里から連絡が来た時、その言葉の意味を理解することが出来なかった。送られてきた病院に向けて車を走らせて、受付でなまえの名前を伝えれば、手術室の前に案内された。

「至さん!」
「万里…」
「顔、真っ青っすけど。大丈夫すか?」
「なまえは?」
「まだ手術中です。とりあえず座ったらどうすか」
「そう、だな…」

世界から色が消えたようで、何もかもがくすんで見える。赤く光る手術中のランプがやけに明るく見えて舌打ちをする。万里の話によれば信号無視して突っ込んで来た車に跳ねられたらしい。

万里はその場に居合わせた訳ではなく、騒ぎになっている場所を偶然通っただけの為、詳しいことはよく分からないと言っていた。万里から渡された缶コーヒーを受け取って、両手で握りしめる。

カタカタと震える指先に思わず自嘲気味な笑いが零れる。温かいはずのコーヒーは冷えきった指先を暖めてはくれなくて。ただ、ただ、祈るしかできない自分の無力さに腹が立つ。

「至さん、大丈夫っすよ。アイツがそんな簡単に死ぬ訳ないじゃないすか」
「……うん」
「前にアイツ言ってたんすよ。至さんは私がいないと死んじゃうから、至さんが死ぬまで私は死ねないって」
「……っ、はは…何だよそれ…」
「だから、大丈夫っすよ」
「…ありがと、万里」

俺の不安や苛立ちを感じ取ったのか万里が明るい声を上げる。ああ、年下に気使われて、励まされて、年上の威厳も何もあったもんじゃない。でも、今、この瞬間だけは、少し心が落ち着いた。浅くなっていた呼吸を整えるようにゆっくり息を吸って、吐く。

手術中のランプが消えて、医者が出てくる。情けなく、足が震えて立てない俺の代わりに万里が医者に駆け寄る。頼む、頼むから、手術は成功したって、時期に目を覚ますって、言ってくれ。

震える足を叱咤して立ち上がり、万里に近付く。振り返った万里の顔が曇っていることに気づいた瞬間、最悪のシナリオが頭をよぎった。俺の表情の変化に気づいたのか万里が慌てたように口を開く。

「手術は成功したらしいです。ただ…」
「ただ…?」
「目を覚ますのがいつになるかは、分からない、らしいです」
「そ、っか…」

手術が成功したことを喜べばいいのか、いつ目を覚ますかわからないその事実に嘆いたらいいのか。何も考えられないし、何もわからない。手術室から出てきたなまえの姿を見て、初めて、今この状況が現実であることを、叩きつけられた。

病室で眠るなまえにゆっくりと近づいて、手に触れる。いつもより少し冷たいけれど、幾らか熱を持つその手にホッとする。ベッドに横たわるなまえは呼吸器さえ付けていなければ普通に眠っているようにしか見えない。


頬を撫でて、手を握る。


「なまえ、俺を置いて行けない、って…言ったんだろ?」


ねえ、いつもの笑顔で笑ってよ。


「この間、約束した遊園地…行くんでしょ…!」


頼むよ、頼むから。


「なまえの、お前のいない世界で、どうやって…!」


また、笑って。


「どうやって生きたら、いいか…分かんないんだよ…っ、!」


目を開けてよ、なまえ。


息が、できない


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