「ゆーき」
「…なに」
「何でそんな嫌そうな顔するのさー」
「なまえが俺の名前をそうやって呼ぶ時は禄なことないから」
「あっ、ひどーい!」

ソファに座ってスマホをいじる幸に後ろから声をかける。振り返って私を見た幸が眉間にシワを寄せる。チクリと胸に走った痛みに知らないふりをしてヘラリと笑ってみせる。年下の彼に恋をしたのはいつだっただろうか。

「で?何の用?」
「ここ!一緒に行こ!」
「は?なんで俺な訳?カップル割引使いたいなら一成と行けばいいじゃん」
「もー!カップル割引使いたい訳じゃないから!」

何だかんだ言って話を聞いてくれる、こういう所も。話す時にちゃんと目を見てくれるところも。全部、全部、幸の好きなところ。気付けば目で追いかけてて、ああ好きなんだって。分かりやすくいっぱい話しかけたりしたけれど、幸は私のことを恋愛対象には見ていないと思う。

前に、幸から何で俺に構うの?と聞かれて「好きだから」なんて言えなくてテンパった私は「弟ができたみたいで嬉しいから」なんてことを言ってしまった。あの日から、きっと幸は私を本格的に恋愛対象として見てくれなくなったと思う。私のバカ。

「ねえ、行こうよー」
「何で俺なわけ…他にも行きたがってる奴いたじゃん」
「…幸と行きたいの」

カップル割引が理由じゃないとは言ったけど、そんなの嘘。好きな人とカップル割引とかやってみたいに決まってる。ここに行きたいって言ってる人は他にもいたけど幸じゃなきゃ意味がない。

恥ずかしいのを我慢してそう伝える。多分、と言うか確実に私の顔は今赤くなってる。でも、これがきっかけでちょっとでも幸が私意識してくれたら、と思えばこの程度なんてことはない。

「幸、こういうの好きでしょ?」
「まあ…嫌いじゃないけど…」
「だから、ね?行こ?」
「はあ…分かったよ。いつ行くの?」

ちょっと無理やりに近かったけど、今は幸とのデートの約束を取り付けられたことが嬉しくてそんなの全然気にならない。嬉しくて、頬が緩む。ああ、ほら。こんな緩んだ表情してたら、また幸に「何ニヤニヤしてるのさ。気持ち悪い」って言われちゃう。

そう思ったのに、いつまで経っても幸は言葉を発しない。不思議に思って幸を見れば、顔を赤くして固まっている。その表情を見た瞬間、私も固まってしまった。なんで、なんでそんな顔してるの。平然を装って幸の顔を覗き込むように首を傾げる。

「幸?顔赤いけど、どうしたの?」
「何でもない」
「何でもないって顔じゃないよ」
「うるさい。なまえにだけは教えてあげないから」
「なにそれ!なんでー!」

私から逃げるように顔を逸らす幸は耳まで赤くなっていた。ちょっと意地悪したい衝動に駆られて顔を見ようと追いかける。拗ねたような声色でそっぽを向く幸を見て、ゆるゆると口角が上がる。ねえ、幸。期待してもいい?

〜〜〜

早くくっつけよ


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