さすがにふざけてる場合じゃないと思ったのか、二人に物凄く心配された。確かにあんな出来事が起きた後にこの部屋で寝るのはちょっと、というかかなり怖い。かと言って団員の部屋に行くのは色々と問題があるし、監督は今日と明日、地方公演の手伝いで寮にいないので部屋を勝手に使う訳にはいかない。

まあ、とどのつまり私はここで寝るしかないという訳で。どれだけ大丈夫か、と聞かれても大丈夫、と答えるしかない。二人がいなくなった部屋でベッドに腰掛ける。見ないように、見ないように、と意識すればするほど視線を向けてしまう。うっすらと色の変わったカーペットにひやり、と背中を冷たいものが流れる。

「はあ…もう寝よ…」


まだ寝るには早いけれどこのまま起きていると気持ち悪くてしょうがない。このまま寝てしまった方が何も見えないし気にならない。真っ暗な部屋で目を閉じるのは何となく不気味で普段は付けない保安灯を付けてベッドに入る。この判断が間違いだったと気付くのは私が眠りについてから数時間後の午前2時。



ぽた



ぽた



ぽた



「ん…?」

一定の間隔をあけて、耳に入ってくる音にゆっくり目を開ける。枕元の時計は午前2時15分を示していた。徐々にくっきりし始める視界と、はっきりしてくる意識の中でふと部屋の隅に目を向けてひゅっと喉が音を立てた。部屋の隅に立っていたのは赤いワンピースを着たずぶ濡れの女の人。

長い髪に隠れた顔から表情を読み取ることは出来ず、俯いた女の髪から滴る水がカーペットに落ちる。音なんて、しないはずなのにぽたりぽたりと、水が落ちる音が耳に入る。耳を塞いでも音はずっと聞こえてきて、女の人から目を離すことが出来ない。

ゆらり、女の人が動いて、ゆっくりと顔が上がる。ぞわり、今までにないくらい鳥肌が立って、目を合わせちゃいけない、このままじゃダメだ、逃げろ、と頭の中で警報が鳴り響く。咄嗟にベッドから飛び降りて、扉を開ける。バタンと少し大きな音がなってしまったが、気にしてなんていられない。

「はぁ…はぁ…っ、けほっ」

談話室まで、なるべく音を立てないように且つ早く移動して、ソファに膝を抱えて座り込む。こんな時間に電気を付けてたら左京さんになんて言われるか分からないけど、今の私にそんなことを気にしてる余裕はない。小さく震える指先を隠すように両手を握りしめる。何故か、異様に寒くて、それから逃れるように体を小さくする。

「っ…!」
「どうしたの」
「ひ、そか…?」
「顔、真っ青」
「な、んでもない。ごめん、起こしちゃったね」

カタリと鳴った音に、反射的に息を飲む。扉を開けて談話室に入ってきた密を見て、肩の力が抜ける。私が部屋を飛び出した時に立てた音で起きてしまったのだろう。私を見て首を傾げる密の視線から逃げるように立てた膝に額を付ける。座っていたソファが少し沈んで、密が隣に座る。ぴたり、とくっついた密の体からじわじわと暖かさが伝わってきて、少しずつ眠くなってくる。

「なまえ」
「ん?」
「ここにいるから、寝ていいよ」
「ほんと…?」
「うん」
「あり、がと」

固く握りしめていた手が密の手にふわりと包まれる。どこから持ってきたのかは分からないけれどブランケットをかけられて、背中から、手から、やんわりと熱が伝わる。段々と瞼が閉じて、体から力が抜けていく。





小さな声でおやすみ、と声がした気がした


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