スマートフォンから鳴り響くアラームの音にゆるりと瞼をあげる。カーテンの隙間から差し込む光が部屋を薄ぼんやりと照らす。何度か瞬きをしてゆっくりと体を起こす。ベッドから降りてカーテンを開ければ朝日が差し込んでくる。その眩しさに目を細めつつ、窓を少し開ける。
「ほんとに、大丈夫だった…」
何も起きずに眠れたどころか、今までだるかった体が嘘のように軽い。前にぽたりぽたりと水音がしていた部屋の隅に足を向ける。まるで、初めから何も無かったかのような様子の絨毯を指の腹で撫でる。部屋の外からはいつもの様に元気に騒ぐみんなの声。
戻ってきた平穏な日常に自然と頬が緩む。手早く着替えて、部屋を飛び出し談話室に向かう。途中ですれ違った咲也に「ご機嫌ですね!」と笑いかけられるくらいにはテンションが上がっていたようだ。談話室の扉を開ければ、いつもの美味しいご飯といつものメンバー。
「おはよ!」
あの出来事はきっと忘れないし、忘れちゃいけない。そんな気がする。あの場所にももう一度行かなければいけない。非現実的な出来事ではあったけれど、それは確かに私の身に起こった出来事で。怖い思いをしたけれど、それはきっと彼女も同じだった。目を閉じる度にあの出来事が頭に浮かぶけれど、いつか、きっとその出来事も思い出話にできる日がくると、そう信じて。
部屋に現れた水浸しの人は、殺人事件に巻き込まれた女の子だった。寂しさから誰かと一緒にいたくて、自分の声を聞いて来てくれた彼女の元に現れた。
ところで…
あの日あの場所で、車の前に飛び出して来た人は水浸しなんかじゃなかった。
なら、それは誰だったと思う…?
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