飲み物を買いに海の家まで来た。そこまでは何もなかった、のだが飲み物を買って皆の元に戻ろうと足を向けた時だった。

「ねえねえ、一人?」

お決まり、と言わんばかりのセリフで声をかけてきたのは如何にも、な感じの男の人二人。こういうのは相手にするだけ無駄だとシカトを決め込もうとしたけれど、腕を掴まれてはそれも叶わない。

「離してください」
「めっちゃ可愛い水着だね」
「顔も可愛いし、俺結構好みかも」

どれだけ素っ気なくしてもニヤニヤと笑う男達にどうしようか、と思っていると聞き慣れた声が耳に入る。

「なまえ!こんなところにいたネ!」
「わ、あ!?シトロン!?」
「探したヨー!どこ行ってたネ?」
「あそこの海の家行ってた」

私の名前が呼ばれたのと同時に後ろからガバリと抱きつかれる。驚いて持っていた飲み物を落としそうになったが、何とか堪えて首だけ後ろに向ければいつもの笑顔のシトロンが立っていた。

「なに?外人?」
「そんな訳わかんない奴より俺らと遊ぼうって」
「オー!まさかこれが所謂ランプってやつネ!」
「…ランプ?」
「ランプじゃなくてナンパね。てか、どこでそんな言葉覚えたのよ」
「至がやってたギャルゲーに出てきてたヨ!」
「またあの人か…」

突然のシトロンの登場に一瞬怯んだナンパ男達だったけど、すぐにヘラヘラと笑って私に話しかけてくる。そんな男達を邪魔するかのようにシトロンが声を上げる。こんな状況でもブレないシトロンにナンパ、という知識を与えたのは相変わらずの至さんだった。さっきまでの空気はどこへやら、完全にシトロンのペースだ。

「おにーさん達かっこいいネー!まさにタツノオトシゴ、ダヨー!」
「ちょ、今日通訳担当いないから勘弁して…」
「何言ってんだ…コイツ…」
「おい、もう行こうぜ」
「折角褒めたのに帰られたヨ…」
「褒めてたか…?」

ペラペラと話すシトロンが何を言ってるのか、私の通訳能力では分からないけれどそれは男達も同じだったようで渋い顔をして去っていった。うん、まあよく分からないけど結果オーライということにしておこう。なんで男達が帰ったのか分からない、とでも言いたげに首を傾げるシトロンに「あ、はは…」と乾いた笑いで返す。

「でも、助かった。ありがとう、シトロン」
「おやすいご用ダヨー!困った時はいつでもワタシを呼ぶといいネ!」
「確かに。シトロンなら何でもできそうだもんね」
「ワタシの魔法でちょちょいのちょい、ダヨ!」
「あはは!じゃあ、今日一日私の専属魔法使いになってもらおうかな」
「それは納得ネ!」
「…納得、?…もしかして、役得?」
「それダヨ!」

歩きながら話をするけれどちょいちょい何を言ってるのか分からないのはしょうがないとして諦める。ふざけて話してはいるけれどシトロンなら本当に魔法か何かを使って解決してくれそうだ。隣を歩くシトロンの手を握って笑いかければぱあっと顔を輝かせた。

タツノオトシゴと夏の男と魔法使い


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