目が覚めたら、真っ白な部屋に立っていた。扉には『キスしなきゃ出られない部屋』の文字。隣から「マジか、わろた」なんて緩い声が聞こえて小さくため息をつく。

「マジか、じゃないよ。どうすんのこれ…」
「キスするしかないんじゃない?」
「私が?至さんと?」
「え、なに。そんなに俺とキスするの嫌なの?」
「キスってやれって言われてするものじゃないでしょ」

見るからに楽しんでいる至さんに文句を言うけれど、当の本人は楽しそうに笑うだけ。ふい、とそっぽを向くけれど拗ねないでよ、と頭を撫でられる。

そんなので機嫌を直すほどチョロい女じゃないんだけど、と不機嫌さをあからさまに出した顔で至さんを見る。

「拗ねてないけど」
「はいはい、ごめんって」
「誠意が感じられない」
「大変申し訳ありませんでした」
「態とらしいムカつく」
「女王様かよ、わろた」

私の髪をくるくると弄びながらクスクス笑う至さんは余裕な表情をしていて。この状況で動揺してるのは私だけなんだと思うと尚更ムカつく。

「ほんと、動揺すると口悪くなるよね。なまえって」
「…ムカつく」
「はは、知ってる」
「至さんのバカ、ゲーオタ、廃人」
「全部褒め言葉じゃん」
「褒めてないから」

すべてお見通しです、と言わんばかりに笑う至さんの胸に頭突きをする。こういう時に自分が子供であることを思い知らされて辛くなる。

私はまだ学生で、至さんは社会人。年齢の壁はどうしたって超えられなくて、いつも振り回されてるのは私だ。今だってそう。私にとっては特別な意味を持つキスでも至さんにとってはそうじゃない。

今まで色んな女の人と付き合ってきただろうし、私よりずっと経験も豊富だ。だからこんな状況でも楽しめるんだ。なんて、ひねくれた考えばかり浮かぶ自分に嫌気がさす。

「なまえ」
「…なに」
「こっち向いて」
「…なんですか」
「俺は、好きでもない子にキスできるほどできた男じゃないよ」
「っ…!な、っ…なに…っ!、?」

至さんに名前を呼ばれて顔を上げる。今まで見たこともないような優しい顔で微笑む至さんと目が合ってドキリと胸が高鳴る。至さんの手が私の髪を梳くように撫でて、唇が落とされる。

言葉の意味と行動の意味、二つのことを理解するのには時間とキャパが足りなかった。言葉は出ないし、顔は熱いし、頭はくらくらする。触れたのは髪だけなのに、体が、顔が、熱をもってる。

その言葉の真意は


髪へのキス→思慕


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