瀬呂範太が慰める

「やああああ!」
「うおお!?」
「せ、くん!ふえええ」
「すっげえ顔。どうした?」
「でん、きっく、やだあああ!」
「上鳴?」


共有スペースにやってきた瀬呂は突如響いた声に驚きの声を上げた。声の主に目を向ければ大きな瞳からボロボロ涙を零しながら走ってくる名前の姿が目に入り、しゃがみ込む。胸に飛び込んできた名前を抱きとめて涙を拭いながら抱きあげればしゃくりあげながら首にしがみついてくる。

名前が泣きながら指を指す方向にいたのはスマホ片手に困ったような表情をする上鳴。泣きじゃくる名前の背中をぽんぽんと叩きながら上鳴に話を聞けば某動画サイトで動画を見ていたところ、広告で流れてきたホラー映画のCMをバッチリ見てしまった名前が大泣きしているということらしい。


「止めようと思ったんだけどさ、止めようとすると怒るからさあ…」
「でんっき、くっ、やああ!」
「ほんとに大泣きじゃん。名前ー、大丈夫だぞー」
「ひっ、く、ふえっ」
「よしよし。もう怖くないからなー」


全く何もしていない上鳴に嫌だ嫌だと言いながら泣く名前を慰めながら上鳴を見れば目に見えて落ち込んでいて、思わず笑いそうになる。少しずつ落ち着いてきた名前を片手で抱き上げたままキッチンに向かい、鍋にミルクと砂糖、ハチミツを入れて温める。


「せーくん、」
「んー?どした?」
「わるいこ、たべちゃうの。あおい、おにさん」
「名前は悪い子じゃないから大丈夫だろ?」
「だって、だって…」
「うおおい!どしたどした!?」


うるうると涙を浮かべながら自身の名前を呼ぶ名前に向き直り頭を撫でる。ぽつりぽつりと紡がれた言葉に返事をした途端、ボロボロと涙が溢れ始めて、また名前がしゃくり上げるようにして泣き始める。肩口に頭を押し付けて名前が泣くものだから慌てて背中を撫でればぎゅうぎゅうとしがみついてくる。


「だ、って…でんき、っく、なまえわる、こって…ふえええ」
「ちゃんと皆と仲良くして、言う事聞いてるんだから名前が悪い子なわけないだろ?な?」
「なまえ、わるいこない?」
「おー、名前はいい子だもんな」
「おにさん、こない?」
「来ない来ない。来てもちゃーんと俺が倒してやるよ」
「ほんと?」
「瀬呂くんに任せなさい!」
「せーくん、あいがと」


名前の説明では全く分からないが恐らく上鳴が余計なことを言ったのだろうと察した瀬呂が名前の頭を撫でて声をかける。ぐずぐずと鼻を鳴らしながら不安げに揺れる瞳で瀬呂を見る名前だったが、瀬呂の言葉に少しずつ落ち着いてきたようで最終的にはふにゃりと笑って再度瀬呂に抱きついた。


「ほら、名前」
「ほっとみうく!のむ!」
「熱いから気をつけろよ」
「あい!」


ソファに座り名前を横抱きにして先程作ったホットミルクを差し出せばキラキラした目で名前がマグカップを覗き込む。両手でマグカップを持ち少しずつホットミルクを飲み進める名前を眺めて、瀬呂が目を細める。時折瀬呂に話をしたりしていた名前だったが、少しするとこくりこくりと船を漕ぎ始めた。名前の手から少し中身の残ったマグカップを取って、中身を飲み干す。ほとんど目が開いていない名前を抱え直して背中をぽんぽんと叩く。


「せー、くん」
「ん?」
「ここ、いてね…?」
「ん。ちゃんといるから大丈夫だぞー」


泣き止んだとは言えども、やはり先程の映像が頭を離れないのかがっしりと瀬呂の服を掴む名前に小さく笑って、その手に自分の手を重ねる。名前の表情がふにゃりと緩み、すぐに小さな寝息が聞こえてくる。頬に残った涙の跡を指で撫でて、瀬呂はぼんやりと考えた。今回のことが女性陣にバレた時点で上鳴の平穏は消え去るだろう、と。


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