切島鋭児郎とご飯

誰もいない共有スペースで軽快な音を発するテレビに切島は足を止めた。何故誰もいないのにテレビがついているのか、誰がつけたのか。色々と疑問はあるが誰も見ていないなら消そうとテレビのリモコンを手に取った瞬間だった。


「きー、くん!」
「うおっ!?」
「びっくりしたー?」
「おー、びっくりしたぞー」
「きゃあ!」


後ろからのどんっ、という軽い衝撃と共に鈴の鳴るような声が自身の名を呼ぶ声がした。突然のことに思わず声を上げてしまった切島を見てイタズラが成功したと言わんばかりにくふふ、と笑う名前の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、切島にはその小さな体を抱き上げる。抱っこされるのが好きな名前は楽しそうに笑って切島の首に腕を回してしがみつく。


「どーしたんだよ、急に」
「あのねー、でんきくんが、きーくんびっくりさせよーって!」
「やっぱり上鳴か」
「くふふ。きーくん、わーっていってた!だいせーこー、だね!」
「おー、大成功だな」


名前がこんな事を考えつくとは思えなかった切島は頭に一人の男の姿を浮かべながら、顔を覗き込むようにして彼女に問いかける。名前の口から出た男の名前に小さく笑っていれば先ほどの自分のリアクションがお気に召したのか、名前がまたくふふ、と笑った。喜ぶ名前を見つながら切島が背中をぽんぽんと叩く。


「ねー、きーくんいまひまー?」
「暇だけど…どうかしたのか?」
「あのね、なまえとでーとしよ!」
「デート?」
「うん!このあいだねー、でんきくんとでーとしたのー」
「上鳴と?」
「おむらいすたべた!」
「お、おう。そっか、よかったな」


ハッとしたように切島の頬を小さな両手で包み込み花が咲いたように笑う名前に切島がキョトンとした顔で首を傾げる。誇らしげに上鳴とデートをしたのだと言う名前の頭を撫でながら切島は笑いを堪えるのに必死だった。実の所、デートではなくただ共有スペースで上鳴と一緒にオムライスを食べただけなのだ。しかし、上鳴がデートだなどと言うものだから名前は一緒に食事をすることをデートだと思っているのだ。上鳴からその話を聞いていた切島は声を上げて笑いそうになるのを何とか耐えながら名前の頭を撫でていた。


「名前、何が食いたい?」
「んっとね、きーくんがたべたいもの!」
「お前はほんとに可愛い奴だな!」
「きゃー!」
「よし!じゃあハンバーグ食うか!」
「くう!はんばーぐ!くう!」
「爆豪に手伝って貰おうな」
「かっちゃんもいっしょ?」
「俺だけだと心配だしな」
「きーくんしんぱいじゃないよ!」
「そうか?」
「うん!あ、あとね!でんきくんがでーとはふたりでするものよ!っていってた!」


名前の言うデートが何なのかを分かっている切島が名前を片手で抱きながら問いかければ満面の笑みで答えが返ってくる。その答えに一瞬固まった切島だったがあまりの可愛さに堪らず思い切り抱きしめる。楽しそうにきゃあきゃあ笑う名前に作るのが簡単そうで且つ子供ウケしそうな料理を選択すれば食い気味に反応が返ってくる。

名前に変なものを食べさせたと分かれば女性陣が黙っていないだろうとその一瞬で考えた切島は料理の得意な爆豪を呼ぼうかとスマホを取り出した。しかし、それは予期せぬ形で名前に阻止される。名前は上鳴に言われたデートは2人でするもの、という言っていた事を守っているだけなのだが切島からすれば自分と2人でご飯が食べたいという何とも熱烈な告白に思える言葉だった。


「じゃあ2人で頑張るか!」
「がんばる!なまえもがんばるよ!」
「よろしくな!」
「よろしくされた!」
「ははっ、なんだそれ」
「う?よろしくされたよ!」


名前をもう1度抱え直して頭を撫でてやれば名前は両手を胸の前で握りしめる。自分が言ったことと同じことを繰り返す名前に思わず切島が吹き出せば不思議そうな顔をする。なんでもない、と笑って名前の頭を撫でてやれば嬉しかったのか名前はくふふと笑って切島にしがみつく。2人で作った、というよりほぼ切島が作ったハンバーグが美味しかったと名前が楽しそうに皆に自慢して歩くのは数時間後のお話。


.
top
ALICE+