世界は今日も回ってる

雨が降っていて、静かな夜だった。雨の音と自分の足音しか聞こえなかった。それなのに。


「ぇ…」


目の前で倒れた男の人が塵になって消えていく。フードを被った男の人が一歩、私の方に足を向ける。反射的に私も一歩足を後ろに下げた。目が合った、気がした。ぞわりと肌が泡立って、頭の中で危険だ逃げろと警報が鳴り響く。


「見つけたァ」


ニタリと目の前の男が笑う。ひゅっ、と喉が鳴って気づいたら男がいなかった。どこに行ったのかと視線をさ迷わせようとした瞬間だった。背後から僅かな衣擦れの音と共に首筋への激しい痛み。ぐらりと体が傾いて、雨で濡れたアスファルトにどしゃりと崩れ落ちる。


「た、すけ…」


力を振り絞って伸ばした手も、薄れる意識の中で絞り出した声も誰にも届かない。どんどん狭くなる視界の中で、お気に入りだったピンクの傘が塵になっていくのが見えた。


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