あの不思議な出来事を体験した日から、つまり、アイツが死んでからかなりの時間が経った。俺達は大学生になったけれどアイツだけが高校生で時は止まったままだ。定期的に行くアイツの墓参りは「もう来なくていいのに」とでも言わんばかりに決まって風が強く吹く。もう使えないはずのアイツの連絡先は未だに消すことができない。
「古橋さあ、いい加減好きな子がいるからって告白断るの止めなよ」
「誰から聞いたんだ、それ」
「お前と同じ学科の女の子〜」
「…お前が俺の学校の奴と交友があることにびっくりだ」
定期的に開催される飲み会は決まって原が呼びかける。俺は断る理由がないし、よっぽどのことじゃない限り参加する。まあ、酒飲むのも嫌いじゃないしな。古橋も基本的にはいつも参加しているけれど、花宮と瀬戸はたまにしか来ない。何でも教授の手伝いだかバイトだかで忙しいらしい。
「好きな子って、アイツかよ」
「…あぁ」
「も〜アイツだっていい加減好きな子作りなよって言うっしょ〜」
原の人脈の広さは女子に限定されてはいるもののかなり広く、本当か嘘か分からない情報まで持ってくる。可愛らしい色のカクテルが入ったグラスを片手に原が口を開く。古橋がアイツのことを恋愛的な意味で好いていたことは俺達全員気づいていた。高校時代、全ての告白を断っていたことも知っていたけれどまさか未だにそうだとは思っていなかった。
「アイツに、約束したんだ」
「約束?」
「死ぬまでずっと、お前に縛られてやるって」
「…げぇ、相変わらず重すぎ」
「そうか?」
持っていたグラスを両手で握りしめるようにして古橋は今までに見た事がないくらい優しい笑みを浮かべるものだから、思わず原と顔を見合わせてしまった。みるみるうちに原の口元が歪められて不味いものを食べた時のようにべぇ、と舌を出す。正直、俺も同じ気持ちだった。
「まあ、アイツは知らないけどな」
「約束したんじゃねぇのかよ」
「言わせて貰えなかったからな」
「なにそれどゆこと?」
「お前らは知らなくていい話だ」
そう言って古橋はグラスに入っていた残りの酒を一気に流し込んだ。もうこれ以上話す気はないと言わんばかりに「そういう原はどうなんだ」と話を逸らした。その顔が、満足気に見えて俺はこれ以上何も聞いてやるまいと思ったんだ。
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