全てはここより始まりき

アイツが死んだ。交通事故だった。

通夜にはアイツと関わりのあった奴らがこぞって参加した。任意の参加だと言われていたにも関わらず驚くくらい人が集まった。アイツの両親はこんなに友達に囲まれて幸せね、なんて言いながら泣いていた。多分、アイツだったら「は?友達?嘘でしょ?」なんて言って笑い飛ばすんだろう。棺の中で静かに眠る姿を見ても、遺影の写真を見ても、実感は湧いてこなかった。

アイツが生きてても死んでても世界は回るらしい。悲しさに涙を流す暇もなく、次の日はごく普通にやってきた。いつものように朝練に行って、授業を受けて、放課後にまた練習する。どこにでもいたはずのアイツが、今日はどこにもいなかった。俺たちは薄情者なのだろうか。誰一人としてアイツの死に涙を流すことはなかった。けれど、時折何かを探すように辺りを見回しては小さくため息をついた。

「やっば、アイツいないと仕事回んないじゃん。ウケるんだけど」

アイツが死んでから少しして、部室で原が初めてアイツのことを話した。見やすくまとめられたスコア、スクイズやタオルの補充、ボール磨きにモップがけ。アイツが難なくこなしていた仕事は当たり前だったけれど当たり前ではなかった。誰もアイツのように完璧には出来なくて、嫌でもアイツのことを思い出させた。クシャクシャになったビブスをそこら辺に投げてベンチに寝転がる原に声をかけようとした、その瞬間だった。

「ちょっと、ビブスぐしゃぐしゃにして投げるのやめてっていつも言ってるじゃん」
「はいはい、失礼しまし、た…あ?」
「は、あああ!?」

いつも聞いていた声が聞こえて、原がいつものように返事をする。俺達も違和感なくその声を受け入れて、気づいた。バッと声がした方を見ればそこにいたのは、ふよふよと浮かぶ半透明のアイツの姿。ポカンと口を開けて固まる花宮と瀬戸なんてこの先一生拝めないだろうし、古橋の露骨に驚いた顔も同じだ。かく言う俺もアイツを見てベンチから落ちた原に大丈夫かと声をかける余裕もなく、ふよふよと浮くアイツから目が離せなかった。

「なぁに、みんなして。そんな幽霊でも見たような顔して…って、そっか。私死んだんだっけ」

そう言いながらへらりと笑ったアイツに誰一人ツッコミは入れなかった。その代わりに、どこからともなく吹いた風がアイツの髪を揺らす。

これは、俺達と数日前に死んだはずのアイツの話だ。
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