ひとへに汝は生きたらばや

ふよふよと浮いたまま俺の後ろをついてくるのが気になってしょうがない。振り返れば俺を見てキョトンとした顔を向けてくる。頭いいんだから俺が今何を思っているのかくらい察して欲しい。あの日、突然現れたアイツに俺たちは言葉を失った。なんで、とかどういうことか、とか。聞きたいことは山ほどあったけれど口から出てくるのは言葉にならない音だった。喉に何かが詰まったかのようにアイツの名前は呼べなくて、口をぱくぱくと開けたり閉めたりする俺達にアイツは声を上げて笑った。

「いや〜、まさか信号待ちしてるところに車が突っ込んでくるなんて思わないじゃん?さすがに回避できないよね」
「…何?お前ほんとに死んでんの?」
「死んでるよ。ほら、だって私透けてるじゃん」

至極普通の顔をして話す姿に原が恐る恐る声をかける。原の問いに全く躊躇うことなく発せられた死んだ、という言葉が重くのしかかる。何となく夢だったら、なんて思ってしまっていたのに本人の口から事実だと言われればもう信じるしかない。「壁すり抜ける、とかちょっと憧れない?」なんて言って原に伸ばされた手は本人が言う通り半透明で。その手に触ろうとした原の手はすり抜けた。

「…そもそも何で幽霊なんかになって出てきたわけ?」
「私もよくわかんないんだよね〜。気づいたらここにいたって感じ?私の知らない所で未練とか出来ちゃってたのかな?どうなんだろ」
「知るかよ。俺に聞くな」

すり抜けた手を見て一瞬だけ唇を噛み締めた原に思わず声をかけようとした俺を遮るように瀬戸が口を開く。確かにそれは俺も聞きたい。全員その気持ちは同じだったようで視線が一点に集中する。う〜ん、と顎に指を当てて考える素振りをしながら曖昧な答えを返したアイツは最終的に質問に質問で答えた。疑問を投げかけられた花宮が呆れたように吐き捨てれば「だよね」なんて言って笑う。

「幽霊って、こんなにはっきり見えるものなんだな」
「いや、そう思うじゃん?でも誰も私のこと見えてないっぽいんだよね。だから皆もどうせ見えないんだろうなって思ったら見えててびっくりした」

すごいね、愛の力だね、なんて言ってケラケラ笑うけれど本当はそんなこと1ミリも思っていないんだろう。案の定、自分で言ったくせに気持ち悪〜、と顔を歪めている。そう思うなら初めからやらなきゃいいだろうと思わずいつものようにツッコミを入れればアイツは嬉しそうに笑う。あんなにも泣けなかったのに、今この瞬間、気を抜いたら涙が零れてしまいそうだった。

「まあ、満足したら成仏するだろうし…ちょっとの間よろしくね」

そう言ってアイツはいつものように悪戯に笑った。

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