「あそこに座ってるの影浦だろ」
「影浦ってあれだろ、暴力沙汰でポイント没収されたって」
「えぇ…何でここにいるの…?」

ある日のランク戦ブース。珍しくソファに腰掛ける黒いツンツン頭を見つけた私は表情を緩めた。が、その直後にC級隊員達のコソコソ話が聞こえて眉間にシワを寄せた。確かに口は悪いし、柄も悪いし、態度も悪いし、割とすぐ手が出るけど…って結構悪いとこしかないじゃん。でも、誰彼構わず噛み付いたりしないよと思いながらもそのツンツン頭に声をかけた。

「カゲくんみーっけ!」
「あ?…うぐっ」
「久しぶり!何でいるの?珍しいね」
「てめぇは毎回毎回飛びついて来るんじゃねぇ!!!」
「とか言いながら受け止めてくれるくせに〜このこの〜」
「チッ、うぜぇ」

気づいてるクセに気づかなかったフリをして私が抱きつくことを許してくれるカゲくんは大概甘い。カゲくんに絡む私を見て周りのC級隊員がザワつく。そんなのお構い無しにカゲくんの隣に座って話しかければカゲくんは舌打ちをしてそっぽを向いてしまった。

「で?何してんの?」
「鋼に呼び出されたんだよ」
「あぁ、そゆこと」

「あの人…B級ソロの湊川さんだろ…?」
「なんであんな不良なんかと一緒に…?」
「自分の評判とか考えないのかな…」

ソファに座り直して、改めてカゲくんに質問をすれば渋々、と言った様子で口を開く。意外と友人が多くて、そんな友人達に甘いカゲくんのことだから鋼くんからの誘いを断りきれなかったのだろう。納得してソファに背を預けて足をフラフラと動かしていると周りのC級隊員がまた、コソコソと話を始める。私に聞こえているということは当然カゲくんにも聞こえている。カゲくんのサイドエフェクトに触れるまでもない。

「おい」
「ん?」
「どっか行け」
「いやいや、何?急にひどくない?」
「いいからさっさと行け」

ムカつくなあ、と思いながら前のソファの背もたれをゲシゲシと蹴っているとカゲくんが機嫌悪そうに口を開く。しっしっ、と手を動かすカゲくんに非難の声を上げればちょっとだけ、本当にちょっとだけ困ったように眉を下げた。その表情で全部分かった。ああ、そういうこと。

「あー…あれ?」
「あ?んだよ」
「あれでしょ?C級のおバカさん達」
「チッ」
「また舌打ち?舌とれるよ」
「とれねぇよ、つーか分かってんならさっさと行けばいいだろ」
「別に?私がカゲくんといたいからいるだけだし?他の人に何言われても関係ないもん」
「恥ずかしい事言ってんじゃねぇ」
「あ?むず痒かった?」
「うるせぇ」
「わっ!髪崩れる!」

小さく笑ってこちらを見てコソコソ言うC級隊員を指させば苛立たしげにまた舌打ちをした。カゲくんには遠まわしに言ってもサイドエフェクトでバレちゃうから思ったことを素直に言うことにしようと決めている私はカゲくんを真っ直ぐ見つめて笑ってみせた。そんな私に一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、カゲくんはまたそっぽを向いてしまった。そんなカゲくんをからかってやろうと顔を除きこめば大きな手で髪の毛をぐしゃりとかき混ぜられた。無でるなんて可愛いものじゃなかった。頭が揺れた。酷い。

「相変わらず仲良しだな、二人共」
「鋼」
「鋼くん!」
「待たせて悪いな、カゲ」
「遅ぇんだよ!もっと早く来い!」
「私が一緒に待っててあげたから寂しくなかったでしょ?」
「寂しくねぇよ!!!」
「そうか、ありがとな。梓」
「ううん。で?どっか行くの?」
「あぁ、久しぶりにご飯でもどうかと思ってな」
「あ?そのためだけに呼んだのかよ」
「そうでもしないと、カゲは隊室から出てこないだろ?」
「言えてる」
「うるせぇ!」

そんな私達にかけられた声にカゲくんと2人で視線を送る。ふっと小さく口元を緩めて笑う鋼くんに飛びつけば一切ふらつくことなく受け止めてくれる。背中に回された優しい手に口元を緩ませているとカゲくんの吠える声が響く。茶化すようにカゲくんに笑えばギザギザの歯をしゃーっとこちらに向けて威嚇してくる。なんか、動物みたい。そんなカゲくんをものともしないでお礼を言いながら私の頭を撫でる鋼くんも大概強者だと思う。

どうやら鋼くんはカゲくんと一緒にご飯を食べに行こうと呼び出したらしい。嬉しそうな顔をしながらも口では文句を言うカゲくんに鋼くんと二人で顔を見合わせて笑えば何笑ってんだよとカゲくんが不機嫌そうにするものだから、もっと面白くなってしまって。鋼くんと声を上げて笑ってしまった。もちろん、カゲくんは何だよ!と吠えていた。

「梓も一緒にどうだ?」
「いいの!?」
「あぁ。いいよな?カゲ」
「あ?勝手にしろ」
「きゃー!行く!行く!」


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