雨降る島で君と二人

上陸したのは雨のよく降る島だった。

その島の人達は基本的に傘を差すという概念がないらしく、決まって皆レインコートを着ていた。ログは半日で貯まることも相まって、海賊や度の人達は食料や日用品の買い物以外では滅多に上陸しないらしい。

かく言う私たち麦わらの一味もナミの指示で上陸しない方向に決まった。勿論、トラブルメーカーのルフィは絶対上陸禁止。ぶうぶうと文句を言う姿に小さく笑えば、何笑ってるんだと怒られてしまった。

上陸を許されたのはサンジくんと私の二人。許された、とは言っても私はサンジくんの付き添い人を決めるクジで当たりを引いたからなのだけれど。必要なもの以外は買わないこと、荷物は極力減らすこと、寄り道しないですぐに帰ってくること、トラブルは絶対に絶対に持ってこないこと。ナミに言われた約束事を思い出して小さく笑えば隣を歩いていたサンジくんが首を傾げた。

「どうしたの?」
「ううん。ナミの言ってた約束事、思い出して」
「ああ、確かにナミさんらしいよな」

よく雨の降る島、とは言っても雨が降らない時も当然あって。運がいいのか悪いのか、私達が島に上陸した時は雲一つない青空が広がっていて少し暑いくらいだった。少し前に遭遇した海賊船から食料を少々拝借していたこともあって、この島での買い物はそこまで多くない。

紫陽花の咲く島一番の大きな通りをサンジくんと歩きながら買い物をしていく。まるでデートみたいだ、なんて思っているとポツリと鼻先に冷たい何かが触れる。

雨だ、と思った時にはもう既にバケツをひっくり返したような雨が降ってきていた。慌てて近くにあった東屋に駆け込むけれど、この一瞬で随分と濡れてしまった。

「濡れちゃったね」
「この雨じゃあ、船に着く頃には二人揃って濡れ鼠だな。ナミさんには申し訳ないけど、ここで少し雨宿りでもしていこうか」
「うん。荷物も、これ以上濡れたら困るもんね」

たっぷりと水を吸い込んだ服はぴったりと張り付いていて気持ちが悪い。加えて、さっきまでの心地の良い温かさは何処へやら。今は冷たい風が肌を撫でて、少し寒い。

空は灰色の雲に覆われて、太陽に照らされてキラキラと輝いていた紫陽花は雨に濡れて少しだけ頭を垂れていた。東屋の屋根に落ちる雨粒がぱらぱらと音を立てる。

そんな心地の良い沈黙を遮ったのは、空気の読めない私のくしゃみだった。

「大丈夫?寒い?」
「ううん、平気。大丈夫だよ」
「嘘。指、震えてる」

貸してあげたいけど、俺も濡れてるから…とジャケットを片手に肩を竦めるサンジくんに大丈夫と首を横に降ればサンジくんは少しだけ眉を下げた。

優しい彼の事だから、寒さに震える女の子に何も出来ないことを悔いているんだろう。確かに少しだけ寒いけれど我慢できない程じゃない。それに、少し暖かいからと油断して薄着で来た私に非はある。サンジくんが心を痛める必要なんて何一つないのだ。

「そうだ。ちょっとだけ、こっちに来てくれるかい?」
「なあに?」
「こうすれば、暖かいだろ?」

そう言って悪戯っ子のように笑ったサンジくんは私の後ろに回り込んで、腕を広げた。ふわりとサンジくんの匂いに包まれて、背中からゆるりと熱が広がる。

お腹に回ったサンジくんの腕と首筋に触れる吐息がくすぐったくて身を捩ればサンジくんが耳元でクスクスと笑う。

「嫌だった?」
「…いや、じゃない」
「うん」

優しい声でそう言われたら、頷いてしまうのは致し方ないと思う。とくり、とくり、と規則正しく音を立てる心臓は驚くくらい落ち着いていて。

サンジくんの熱と、香りに包まれて訪れる沈黙に目を閉じる。ざあざあと降る雨が世界から私達だけを切り離しているみたいだった。

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