夢であれと何度祈っても

目の前で、ルフィがサンジくんに蹴られて地に伏せた。今までどんな敵とぶつかっても怖いなんて思ったことはなかったのに、今は、驚く程に怖い。

震える足はピクリとも動いてくれないし、カチカチと歯が合わさる音だけを発する口は言葉なんて紡げない。

やだ、やだよ。やめてよ、サンジくん。

心の中で叫び続けても、声にしていないその気持ちは伝わらない。チラリとこっちを見たサンジくんと目が合って、その目が一瞬見開かれて気付いた。

私が、涙を流していることに。一瞬だけ苦しそうな顔をしたサンジくんがすぐに視線を逸らして踵を返す。

「っ、ま、まって…!」

もう会えないかもしれない。もう二度とこっちを見てくれないかもしれない。もう二度と、話せないかもしれない。

そう思ったら自然と体が動いてサンジくんの手を掴んでいた。ピタリと足を止めたサンジくんはこっちを見てくれなくて。膨らむ不安は徐々に体を震わせていく。

「ほ、んとに、船、おりるの?」
「ああ」
「もう、さんじくんの、ごはん、たべれないの?」
「ああ」
「なんで、こっち、みてくれないの?」

震える言葉と溢れる涙。

必死に訴えかけてもサンジくんはちっともこっちを見てくれなくて。無理やりこっちを向かせようと腕を引くと、サンジくんの体はいとも簡単にこちらを向く。

顔を見て、後悔した。サンジくんが、私に、こんなにも怖い顔を向けたことがあっただろうか。

「離してくれ」
「や、やだ…!」
「離せ!」
「っ…!」

私を鋭い目で見て冷たく言い放ったサンジくんは頷かない私を怒鳴った。驚きで離した手をサンジくんは静かに見てから私を見てゆっくりと口を開いた。

「俺はもう、あの船には帰らない。名前ちゃんとの恋人関係も解消だ」
「ね、ぇ…、うそ、でしょ…?」
「大変だったよ。君が思い描く理想のサンジくんを演じるのは。ようやく肩の荷が降りた」
「や、やだ…!もう、やめてよ…!」
「もう二度と会わないんだ。俺のことは忘れて、新しい恋人でも作ってくれ」

じゃあな、と私に背を向けたサンジくんが涙でどんどん見えなくなる。ひゅっと音を立てた喉が痛くて、苦しい。

行かないで、帰ってきて。嘘だと言って。泣かないでって、言ってよ。

言葉が上手く出てこなくて、手が、足が、震える。ぐらぐらと揺れる頭と視界に、もう何も考えられなくて。

溢れる涙が、雨と共に服を濡らした。

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