ちゅーしゃはきらい!

「やだああああ!」

船の中に響き渡った悲痛な声と船員達の気合いの声。

とある島への上陸にあたって予防接種を受けなければならないと決まったのが一昨日の話。船員達は既に全員予防接種を終えて、残りはあと一人。この船の末っ子お姫様こと、名前だ。

注射が嫌いな名前は先程から嫌だ嫌だと船の中を走り回って逃げている。白ひげ海賊団のクルーともあろう男達が、小さな子供一人捕まえられないはずがないのだが…末っ子お姫様の可愛さが故に皆捕まえられないのだ。

「やだああああ!さっちのばかあああ!きらいいい!」
「う''っ……」
「ああああ!サッチ隊長のバカ!何で手離してるんすか!」
「お前…っ!あんな事言われて手離さない訳ねぇだろ!同じことされろ!」

捕まえた〜!と笑いながら小さな体を抱き上げたサッチだったが腕の中でボロボロと大粒の涙を流して嫌いだと泣き喚かれ、ショックで手を離してしまう。

隊員達から非難の声が上がるけれど涙目になりながらそのショックを訴えるサッチに全員が言葉に詰まる。日頃から可愛がっている末っ子のお姫様に皆嫌われたくない、という訳だ。

「ったく、世話かけさせんじゃねぇよい」
「ひっ…や、っやだああああ!まるこのばがああああ!ぎらいいい!」
「嫌いでも何でもいいよい」
「あーあ、泣きすぎだろ。目ぇ真っ赤じゃねぇか」
「ひっぐ、やだあああっ、ちゅーしゃ、やだあああ」

そんな鬼ごっこに終止符を打ったのは我らが一番隊隊長のマルコ。バタバタと手足を動かして暴れる小さな体を小脇に抱えて医務室に歩き出せば、一際大きな泣き声が響き渡る。

少し後ろを歩くエースがその顔を見てふはっと吹き出せば、必死に助けを求めるように小さな手がエースに伸ばされる。

「えー、っずっ、うえっ…えーす…っ!」
「ん、注射痛いもんな。嫌だよな」
「う、んっ…やだっ…!」
「でも、今注射しねえとこの後もっと痛い注射しなきゃいけなくなっちまうぜ?」
「やだあああ…!ちゅー、しゃっ、やだあああ」
「だから、今ちょっとだけ頑張ろうぜ。な?俺がずっと一緒にいてやるから」

小脇に抱えられていた小さな体をエースが抱き上げれば、小さな腕が首に回る。ぎゅうぎゅうと抱きついて耳元でぐすぐす鼻を鳴らす背中を優しく撫でれば少しずつ落ち着いてくる。

医務室の椅子に腰かけて真っ直ぐに目を見て話をすれば、ゆらゆらと不安げに揺れる瞳がエースを捉える。小さく頷いたその頭をぐりぐりと撫でれば、またその体が抱きついてくる。

「な、注射終わったらサッチにおやつ作ってもらおうぜ」
「おやつ?」
「何が食べたい?」
「んっとね、いちご!」
「じゃあサッチに頼んで苺いっぱい乗ったケーキ作ってもらおうな」
「ほんと!?」

決心はしたものの目の前で注射を構えるマルコを見て怖くなってしまったのかまたしても目に涙を浮かべ始めたのを見かねたエースが、明るい声で話し始める。

キョトンとした顔でエースを見つめて、意識が注射から完全に逸れる。頭の中がおやつでいっぱいになった隙にそっと注射を済ませたマルコが視線でエースに合図を送る。

「よし!じゃあ、注射終わったしサッチのとこ行くか!」
「ちゅーしゃ、おわったの?」
「ああ、終わったよい。お前がいい子にしてたからねぃ。痛くなかったかぃ?」
「いたくなかった!」
「そりゃよかったよい」

今まで怖くて痛くてしょうがなかった注射があっという間に終わったことに驚いて目を真ん丸にするお姫様の頭を優しくマルコが撫でれば、えへへと嬉しそうにその頬を緩ませた。

その後「きらいっていってごめんね?さっちのことも、まるこのことも、だいすき!」と言って笑ったお姫様にデレデレと頬を緩ませる隊長二人がいたとかいなかったとか。

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